19世紀のヘーゲル哲学、ドイツ・ロマン主義に端を発し、近代ドイツの芸術・デザイン史のひとつの頂点となり、また以降のドイツ・デザインの出発点ともなったバウハウス。この芸術総合アカデミーが、機械生産の時代にふさわしい新しいデザインを求め、より合理主義的傾向を強めつつあった1924年、ドイツ・メッツィンゲンにひとつのブランドが誕生した。現在ではラグジュアリーファッションの世界的ブランドとなっているヒューゴ ボスだ。
創業者はフーゴ・フェルディナント・ボス。南ドイツの小さな都市に、5人兄弟の末っ子として生まれ、18歳のころには、すでに紡績などの修業を積んでいたという。その後、両親の営んでいた婦人用商店を引き継ぎ、新たな会社を設立。当初はオーバーオール、レインコート、ユニフォームなどの仕事着の製造・販売からのスタートだった。
「理性的で機能的、そしてシンプル」デザインの有様は、その時代の政治、経済、社会、文化、テクノロジー、生活スタイルなどのすべてを総合的に反映するものである。その時代を視覚化していると言ってもいい。とすれば、バウハウスとヒューゴ ボス、同じ時代を共にした両者が同様のデザイン哲学を宿していたとしても、さほど不思議なことではない。
あらためて比較してみると、バウハウスの革新的な精神、そして徹底したシンプリフィケーションの過程は、現在のヒューゴ ボスのデザイン哲学にも通底していることに気づく。
「Less is more(より少ないことは、より豊かなことだ)」
近代建築の三大巨匠の一人にして、バウハウスの3代目学長でもあるルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエの有名な言葉に象徴される、無駄を省く哲学。それはヒューゴ ボスにおいても同様であり、そのデザインはもとより、調達や製造過程にまで存分に発揮されている。
高品質のリアル・クローズの魅力革新へのチャレンジを続けるヒューゴ ボスは、ときにテクノロジーの力も最大限に活用する。トラディショナルでありながらスタイリッシュなイメージがあるのは、そのためだろう。同ブランドが得意としているのは、職人のテーラーリングの技を最先端のテクノロジーと融合させ、モダンなデザインや着心地の良さ、さらには、価格以上の品質を実現することだ。
例えば、今回紹介しているスーツ(写真)も、イタリア・ビエラで200年の歴史を誇る老舗メーカー、グアベロの極細の生地「super130’s」を高度な技術で仕立て、調達や生産工程にテクノロジーを導入して合理化をはかっている。
スーツ 124,200円、シャツ20,520円、タイ16,200円、コート 59,400円(ともに税込み)仕事着から始まったブランドということもあり、豊富なラインナップとサイズが揃うのも特徴だ。機能性は言うまでもない。流行を積極的に取り入れるよりも、シンプルで長く着られるスーツを志向しているため、極上の素材や縫製でありながら、日常のビジネススーツとしての使い勝手も兼ね備えている。