最初にこれを考案したのは、同牧場の経営パートナーであるスコット・デブラウン。1998年のことだった。彼の父親エイドリアンは、オーストラリアで初めて日本から純血種の和牛を輸入し、繁殖させた酪農家の1人だった。
「マユラステーションは純血種の和牛生産のパイオニアだったが、さらなる差別化を図るために何か違う、新しいことがしたかった」とデブラウンは言う。
そこで彼は、日本から来た栄養学の専門家に相談。2年以上をかけて、4人の専門家を“審査員”に全部で24の食味テストを行い、最終的な餌の割合を決めた。大手菓子メーカーのキャドバリーから提供されたミルクチョコレートを平均1~2キロ、それにグミやいちごなどを飼料に混ぜて毎日与えている。
最終的な肉の味に重点を置いたこの戦略が功を奏し、マユラステーションはオーストラリアで(もしかしたら日本を除いた世界で)最大の個人所有の純血種和牛ブリーダーとなった。さらに、多くの有名シェフがマユラの高級ビーフを称賛している。
マユラステーションのビーフと、霜降りが有名な日本の和牛との違いは、ステーキに適しているかどうかだ、と香港の人気フレンチレストラン「Arcane」のシェーン・オズボーン料理長は言う。独特の甘み、ナッツのような香りとバターのような食感で「マユラのストリップロインやリブアイは、究極のステーキになり得る」と彼は言う。
だが実は、マユラステーションがチョコレートの重要性に気づいたのは、2010年のことだった。肉の色をよりピンクに、より霜降りにするために、デブラウンらは餌からチョコレートを抜いたことがあった。
それから2か月後、長年の顧客から「何をしたんだ? 和牛の味が落ちたのだが」と電話があった。そこで同牧場では再び餌にチョコレートを加え、餌場も改良した。