IBM「デザイン思考の定着」への挑戦

ダグ・パウエル (写真=松井康一郎)

IBMは2017年までにデザイナーを1500人に増員すると発表し、デザイン思考の実践へ大きく舵を切った。自社の組織に理想的なデザイナーの人数を算出し、大量の新規採用をするという大胆な策に出たのだ。

全く異なる仕事の仕方や思考方法を組織に定着させるにはどうすればよいのか。IBMでDistinguished Designerを務めるダグ・パウエルに、『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』の著者・佐宗邦威が聞く。

ーデザインのバックグラウンドのない社員と交流する際のポイントは?

目指しているのは顧客やユーザーに共感するデザイン“カルチャー”をIBMに定着させることです。そのためにはデザインを通した「経験」を与えることです。デザイナーがリーダーシップを取り、デザイン思考で問題解決をする体験を促すのが効果的です。

そのために我々は、新しく組織に入るデザイナーに「ファシリテーター・トレーニング」という研修を受けさせています。デザイナーがチーム内のデザイン思考をリードできるようにするためです。

ーリソースを割きづらい社員にはどのように「体験」を促すのでしょうか。
 
凝縮された体験を与えるのです。例えば、「デザイン・デイ」というエグゼクティブ向けの1日限りのプログラムでは、ワークショップを通じてその日のうちに成功体験を与えます。すでに1,000人ほどのエグゼクティブが本プログラムを受けています。

ー1,000人とはすごい数ですね。
 
エグゼクティブへのアプローチは重要です。彼らをデザイン思考の“信者”にしてしまえば、物事が急速に変わり始めます。IBMでも、CEOのバージニア・ロメッティがデザイン思考について語り始めた途端に、従業員が関心を持ち始めました。

彼女は2015年の年次報告書でもデザイン思考について言及していますが、当社のような大企業では非常に珍しいことであり、その点で我々は恵まれた環境にいると思います。

ーエグゼクティブの多くは成果重視型だと思います。デザイン思考の価値を理解してもらうための戦略を教えてください。

デザイン思考に即効性はありません。ですから、デザイン思考がどのような効果をもたらすかを事前に明確にし、理解を得る必要があります。チームがより効率的に、協力しあって俊敏に動くことによって仕事がうまく回り、結果的にビジネスに貢献することの成果を、いくつかのビジネスサイクルを経て実感できるはずです。


ダグ・パウエル◎IBMデザイン・プリンシパル。1988年ワシントン大学卒業。デザイナー、ストラテジスト、起業家として健康・栄養分野をはじめとした様々な企業とパートナーシップを組み、プロジェクトを主導してきた。2011年〜13年アメリカグラフィックデザイン協会(AIGA)会長を務める。13年にIBMに入社し、現職。

インタビュー=佐宗邦威 構成=水口万里 写真=松井康一郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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