「想いが届く」ラジオの可能性[小山薫堂の妄想浪費 vol.17]

世界中どこでもいつでも、ラジオが心をあたためる!(illustration by Yusuke Saito)


もうひとつ、FUTURESCAPEには「裏FUTURESCAPE」なる番外編がある。放送終了後に喋り足りない僕と柳井さんがさらにだらだらと喋ったものを番組としてPodcastで配信しているのだが、なんと毎週約1万人にダウンロードされている。その多くは海外在住者で、理由は、茶飲み友達のなんてことない日本語の会話に飢えているから。彼らにとっては、日本の喫茶店で隣の席の噂話に聞き耳をたてるような感覚なのかもしれない。

「ザンビアで聴いています」というメールをもらったこともあるし、ジュネーブに行ったときに、ある日本の銀行のスイス支店長にも「聴いています」といわれた。エンターテインメントというものは、不特定多数のためより、すごく小さなパイの共感しあえる人に向かってつくったほうが、結果的にはおもしろくなると思う。その原型が、ラジオにはあるのだ。

企業の想いが届くラジオ

というわけで、企業の皆様には、宣伝費用の一部でラジオ番組を制作することをオススメしたい。月額1,500万円として、年間1億8,000万円。ただし、ラジオで宣伝して売り上げを上げようと思ってはダメです。
 
良い例を紹介しよう。岐阜県大垣市にTSUCHIYA株式会社という建設会社がある。いつだったか会長兼社長の土屋智義氏をあるバーで紹介され、「いつか小山さんと仕事がしてみたい。何かあったら声をかけてください」といわれたことがあった。

それから数カ月後。J-WAVEに「HOLIDAY SPECIAL」という、祝日にオンエアする9時間生放送の特番枠があるのだが、放送1カ月前にスポンサーが諸事情あって降りてしまい、スタッフから相談の電話を受けた。僕はふと土屋さんの言葉を思い出し、ダメもとで「関東圏のみ放送のラジオ番組なんですが、スポンサーをやりませんか?」と尋ねてみた。土屋さんは「え? 岐阜では聞けないの?」と最初こそ笑ったものの、その場で快く引き受けてくれた。

そして番組はなんと今年の1月11日で11回を数えるまでに! 土屋さんは第1回から「うちの宣伝はしなくてもいい。これはCSR(企業の社会的責任)のようなもので、楽しければそれでいいですよ」とおっしゃり、毎回子どもに夢を与えるテーマで番組制作を続けてきたのだ。リスナーがTSUCHIYA株式会社に何を感じるかは言わずもがなである。
 
ラジオほどオーナーの想いが反映されるメディアはない。2012年、木下工務店完全子会社のキノシタ・マネージメントがInterFMを買収したとき、メディア界は騒然となったけれど、僕は企業が理想のラジオ局をつくりあげて遊ぶのはとてもおもしろいんじゃないかと思う。

たとえば大阪のFM COCOLOがリスナーセグメント戦略としてAOR世代をターゲットにしたように、大学生による大学生のためのラジオ局なんてどうだろう。全国の大学生にかかわる情報を集めて放送すれば、スポンサー企業にとっては良い人材を見つけるチャンスになるかもしれない。Facebookだって、ハーバード大学の学生限定のコミュニティだったのが、いまや全世界に広がる巨大メディアになった。ラジオだってそんな魅力的な可能性を秘めていると僕は思う。

イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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