【作家対談】竹内 薫x波多野 聖 人工知能が「小説の世界」を現実にする日

竹内薫(左)、波多野 聖(右):写真=アーウィン・ウォン

AI(人工知能)が金融市場に投入された世界を描く、連載小説「バタフライ・ドクトリンー胡蝶の夢ー」。作家・波多野聖が考える“近未来”を、サイエンス作家の竹内薫はどう見たのか? AIと量子コンピュータを巡る「3つのテーマ」をもとに語り尽くした、スペシャル対談。


ーAI(人工知能)という存在について。AIは社会に何をもたらすのかということ。最後に、量子コンピュータの可能性を。竹内の著書を愛読してきた波多野が、独自の視点で切り込む。

波多野 聖(以下、波多野):今、新聞で「AI」という言葉を検索すると、1カ月だけでも、ものすごい数が出てくるんです。「銀行が融資にAIを導入する」「マーケティングでAIを使う」といったものですね。
 
僕自身、危惧していることがありまして。「AIが大恐慌を引き起こすのではないか」ということです。

戦前戦後の経済評論家、高橋亀吉によると、「大恐慌の前には、主要な産業での飛躍的な生産性の改善がみられる」と、されています。実際、世界大恐慌前の1920年代に農業の生産性の飛躍的向上が起こっている。その結果、農産物の価格は下落し、失業者が増加した。それと同じく、AIの導入がもたらす飛躍的な生産性の向上が、大恐慌の扉を開くのではないかと。

AIは5年後、10年後、どのような広がりを見せると、お考えですか?

竹内 薫(以下、竹内):僕は科学技術書の翻訳の仕事もしていますが、おそらく5年後、10年後にはなくなると思うんですよ。

波多野:「翻訳」というものがですよね。

竹内:科学技術の本の翻訳であれば、10年経てばAIがやると思うんです。

でも、小説家はいなくならないと思う。科学書にしても、初めに書く人はいなくならない。でも、別の言語に翻訳する人は恐らくAIが取って代わる。AIの入り込み方は、分野や仕事によって、違うんですね。

AIが入ってくることによって、コストは浮くわけです。経営する側としては、非常に良い方向で作用すると思います。

波多野:そこは問題ないですよね。

竹内:問題は、代替されてしまう人です。

ただ、AIに関しては、僕はポジティブな考えを持っていて。AIというより、IoTですね。二つが組み合わさり、吸い上げられるビッグデータを分析し、世界を最適化していく、という未来はやってくると思う。世界がAIによって最適化されてゆくことで、一時的にかもしれませんが生産性も上がるでしょうし、良い面があると思うんです。

ご指摘の「大恐慌」に関しては、生命の長い歴史が参考になるかもしれません。歴史の中でなんらかの「進化」が起きている時というのは、同時に「大量絶滅」の時でもある。絶滅と進化はセットなんです。

波多野:クリエイティブ・ディストラクション。

竹内:まさにそうです。いいとこ取りで、「進化だけしていこう」ということは生命の歴史では起こり得ないのだと思います。

AIの場合も同じで、まだ経済的、文化的、あるいは科学技術的なことなのか私にはわかりませんが、ある種“絶滅”のようなものは起こると思います。そこを生き伸びた人々は、次のステージへ進化し、英国が産業革命で躍進したように、良い世界が待っている。それが僕のイメージですね。

波多野:僕は、AIが人間の仕事を代替するだけで新たな産業を何も生み出さないということが、経済学上、危惧すべき状況を生み出すと考えています。

資本主義型社会においては、株式会社の至上命題はROE(株主資本利益率)を改善し、自社の株価をいかに上げるかですよね。その経営上のコストで最も高い人件費を、AIを導入することで大きく抑えることができる。ならば、企業はこぞって導入するでしょう。

しかし、銀行が融資にAIを導入すると、何万人という融資担当人材が仕事を奪われる。彼らはどこへ行き、何の仕事をすればいいのか? ここに大きな問題があります。
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構成=森 旭彦、フォーブスジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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