斎藤:新規事業の成長軌道は「Jカーブ」とも呼ばれ、売り上げに繋がるまでしばらく耐え忍ぶ“生みの苦しみ”があります。この時期に、社内でつぶされないことが最初の課題。そのため、既存事業との売り上げ比較ではなく、別の軸で勝負する必要があります。この時期に有効なのは、「PR・採用・人材育成」に力を入れることです。
まずは、事業への期待値を上げるための「PR」。売り上げと違い、メディア露出は短期間に大幅に拡大する余地が十分にあります。大手メディアに取り上げられることは、新規事業の社内で理解を得ることにもつながります。その次は「採用」。採用の母集団は、自分たちのブランドに対応して存在します。よって、PRによるブランディングが成功すれば、今まで採用することのできなかった人材を獲得することができます。
そうやって採用した優秀なメンバーを、最後に「人材育成」していきましょう。「PR・採用・人材育成」は、経営側から見れば、資金を投入しても成果が出にくい分野ですが、この3つに成功した新規事業は、社内ではつぶしにくい。ここに、私が「PR・採用・人材育成」を“Jカープを乗り越える3種の神器”と呼ぶ所以があります。
小杉:斎藤さんがイントラプレナーとして成果を出すことができたのは、ただがむしゃらに仕事に取り組むのではなく、「新規事業を成功させるには何が必要か」を問い続けてきたからでしょう。その結果、自ら生み出したフレームワークは非常に汎用性が高く、新規事業を成功させる手助けとなるはずです。
斎藤:ベンチャー企業では、事業を小さく始めて顧客の反応を見ながら軌道修正していく「リーン・スタートアップ」のような手法が提唱されていますが、社内新規事業にはそのような仮説はまだありません。大企業の中からイントラプレナーを一定数生み出すにも、やはり体系的なフレームワークが必須です。
また熱量を持って働き続けるためには、人生の中での強烈な成功体験や苦しい体験といった「原体験」を意識して、そこから「ミッション」を定めることが有効です。ベンチャー起業家は強烈な原体験を持っているケースが非常に多いので、イントラプレナーを目指す人材も意識してみることを推奨します。
小杉:高い志を掲げたとしても、様々な障害に阻まれることで、途中で諦めてしまうケースの多い社内新規事業ー日々闇中模索するイントラプレナーにとって、現場を知る斎藤さんが生み出したフレームワークは、“一筋の光”になるのではないでしょうか。
斎藤祐馬◎1983年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士。トーマツベンチャーサポートで事業統括本部長を務める。著書に『一生を賭ける仕事の見つけ方』(ダイヤモンド社)。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」出演等。
小杉俊哉◎1958年生まれ。早稲田大学法学部卒。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院修了。現在、慶應義塾大学大学院特任教授等を務める。著書に『起業家のように企業で働く』(クロスメディア・パブリッシング)等。