公認会計士としてトーマツに入社した斎藤は、2010年に休眠状態にあったTVSを、社内ベンチャーとして再立ち上げ。国内外で100人を超える規模に成長させたイントラプレナーだ。経営の立場でイントラプレナーについて研究する慶應義塾大学大学院特任教授の小杉俊哉は、斎藤が新規事業の現場から生み出した独自のフレームワークには、事業を成功に導くヒントがあると分析する。
小杉:斎藤さんは、ベンチャー企業の成長や大企業の事業創出をサポートする“新規事業支援のプロ”。その上、TVSの再立ち上げや、150人の大企業の新規事業担当者にベンチャー企業がプレゼンテーションを行う早朝イベント「モーニングピッチ」の立ち上げなどの経験を持つイントラプレナーです。「社内での立ち上げ」と「外部から支援」ー2つの側面から新規事業を知る斎藤さんから見て、大企業内で新規事業を成功させるのは、なぜ難しいのですか。
斎藤:新規事業には、本気で取り組む「マインド」、組織内外の人との「ネットワーク」、ビジネスモデルを組み立て遂行するための「経営スキル」が必要です。成功するベンチャーの起業家は、この3つの資質を必ず備えています。
しかし、日本の大企業には技術・資金・人材は潤沢にあっても、この3つを備えた人材だけがいません。だからといって、単純に大企業が起業家タイプの人材を採用すればいいというわけではありません。起業家タイプの人材は、「自分で自由にやりたい」という気持ちが強く、社内新規事業に欠かせない社内の調整には不向きです。
小杉:では大企業内の人材が、イントラプレナーとして新規事業を成功に導くには、どうすればよいのでしょうか。
斎藤:社内新規事業をスケールさせる鍵となるのは、「ビジョン・数字・政治」です。まずは新規事業を志す人材には「この事業に人生を賭けたい」という「ビジョン」が必要です。
ビジョンは個人的なレベルから始まったとしても、そこから会社、業界、社会と視点を高めていくことで、できるだけ多くの人数を巻き込みましょう。ビジョンを持つ人間が1人では変人でも、5人いると文化になり、社内に“居場所”ができます。目安として、15分語れば、人から協力してもらえるレベルまで、ビジョンを研ぎ澄ます必要があります。
しかしビジョンだけではまだ共感レベルなので、次に必要になるのが「数字」。実際に売り上げをつくることで、新規事業の必要性を会社側に納得させましょう。「数字」を出せれば、ある程度の支援を社内から受けることができます。
その後ろ盾を持って、「政治」を駆使し、社内のしがらみの突破を目指します。最終的に、ビジョンに共感していない人でも、打算で参加したくなる段階になると、新規事業は一気にスケールします。
小杉:社内新規事業では、売り上げを作る「数字」の段階が大きなハードルになりそうですね。