同社には「コミュニティ・マネジメント・チーム」と呼ばれる専門スタッフがいて、つながりの強化に努めている。彼らは日常的に会員たちと接して、問題があればすぐに対応するだけでなく、仕事で関係しそうな人を紹介したり、交流イベント(「雨の日にホットチョコレートを飲もう」など)を企画したりしている。
驚かされるのはそのイベントの数だ。どのオフィスでも、週に10〜15くらいのイベントが開かれているという。前述のチームが企画する場合もあれば、会員が自主的に主催する場合もある。
イベントの種類もさまざまで、「テクノロジー業界で働く女性」や「レバノン人起業家の集まり」といった勉強会・交流会的なものから、ヨガやフィットネスなどビジネスとおよそ関係ないものまである。
こうしたイベントは他のコワーキングスペースでも少なからず行われているものだが、WeWorkが同業他社と異なるのは、会員同士のネットワークが国境を越えて構築されている点だ。
先に述べたとおり、同社は世界30都市以上に進出している。海外展開に力を入れる理由として、ミゲルは「グローバルなリソースが使えれば、顧客はビジネスを加速度的に成長させられる」と語る。
具体的に、顧客企業はどのようにして同社のグローバルなネットワークを活用しているのかというと、WeWorkには会員専用のSNSのようなシステムがあり、他のオフィスに通う会員ともオンラインでつながることができる。たとえば「Xの市場のYについて教えてほしい」とオンライン上に質問を投げかけると、世界のどこかの都市の誰かがすぐに返答してくれるという。
「ニューヨークならメディアやファッション、広告関連のビジネスが強いし、ロンドンなら金融やフィンテック、ロサンゼルスならエンターテインメント、サンフランシスコならテクノロジーといったふうに、都市によって強みが違う。だからグローバルなリンクがあれば、ローカルでは得られないようなリソースが得られます」とミゲル。
もちろん、ロンドンオフィスの会員がサンフランシスコを出張で訪れた際に現地オフィスを利用できるなど、現実的な利点もある。
興味深いのは、こうしたオンライン上の交流に対しても、同社が積極的に関与している点だ。「メンバー・エンゲージメント・チーム」の担当スタッフが目を光らせ、「質問しても反応がない」といったことがないようにうまく誘導し、交流を盛り上げているという。
WeWorkの目指すべき姿が少し見えてきた。シェアオフィス事業といえば地域に根差した小規模ビジネスが普通だが、同社は世界的な規模で“リアル”なネットワークを構築しようとしている。そのために重要なのが「スケール(規模)」だ。
「会員になれば、場所にもよりますが、入居したオフィスビルですぐ1,000〜2,000人のローカルのつながりができる。それだけでも充分に強力ですが、世界的に見ると7万人、いえ、もうすぐ10万人のネットワークができる。それが真の差別化要因です」(ミゲル)
社名の「We(私たち)」には、そんな狙いも込められている。
WeWork(ウィーワーク)◎ニューヨークに拠点を置き、世界30都市以上でコワーキングスペース事業を展開する。創業は2010年で、企業価値はアメリカの非上場企業で5番目に大きい。今春、コリビング(シェアハウス)事業の「WeLive」を新たにローンチ。