ビジネス

2016.12.05

組織論と発想法から読み解く、伝説のレストラン「エル・ブリ」の秘密[後編]

エル・ブリのシェフ フェラン・アドリア (Dave M. Benett / gettyimages)


最も興味深い点は、エル・ブリのスタッフ全員が理解し、話すことのできる「共通言語」を生み出したことである。その言語を使って、エル・ブリの料理を分析・評価し、新たな可能性を広げることができたのだ。記録・分析・分類のシステムによって、エル・ブリの情報は経歴や勤続年数に関係なく、スタッフの誰もが利用できるようになった。その結果、統制のとれたダイナミックなシステムが構築され、さまざまなイノベーションにつながったのだ。

エル・ブリの活動を統合する「共通言語」を開発したことー。これこそが、アドリアが、エル・ブリにダイナミズムを与えることができた最大の要因である。

組織論の大家カール・ワイクも、ジャズの即興演奏のダイナミズムを例に、「『共通言語』を獲得することで組織に秩序と規律がもたらされ、斬新な発想や自主性が生まれやすい環境が整えられる」と指摘している。組織内の情報を参照できるシステムを整え、共通言語を開発することにより、組織は斬新なアイデアを生み出す能力を高めることができる。

とはいえ、このシステムが機能したとしても、リスクも大きい。メンバーの誰かが自分のアイデアを理解不能な言語で話せば、そのアイデアは理解されず、単に“意味不明なもの”で終わってしまうからだ。しかし、エル・ブリではそんなことは起こらなかった。

なぜなら、「組織内イノベーション」を起こすシステムを構築するだけで満足せず、アイデアの検証・承認をレストランの外部に委ねたからである。エル・ブリのスタッフは、アイデアのオリジナリティに強いこだわりをもつことのみならず、そのアイデアが広く世に知られ、評価を受けることにも多大な注意を払った。

こうした外部を使った検証システムにより、エル・ブリではますます独創的な料理が開発され、その調理法を知りたがる人々が続々と現れたのだ。

文=マリア・ピラール・オパゾ 翻訳=岡本 冨士子 / パラ・アルタ

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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