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2016.12.04

組織論と発想法から読み解く、伝説のレストラン「エル・ブリ」の秘密[前編]

Photo by Samuel Aranda/Getty Images


チームがエル・ブリの料理を評価する際の主な基準は次の2つだ。

1. その料理の斬新さが、どのくらい“外部からの影響”を受けているか?
2. その斬新さを進化させるために、“エル・ブリの知識”がどのくらい生かされているか?

これらの基準に照らし合わせて、チームは1983年以降に生まれたレシピの分析と分類に取り組んだ。厳密な評価方法で分析を進めた結果、87年が「真にエル・ブリの独創的な料理が完成した年」とされた。それ以前のエル・ブリの料理はすべてオリジナルではなく、既存の料理の模倣にすぎないことがわかったからだ。

こうして、データを体系化したことにより、チーム全員で新しいアイデアを承認・評価する態勢が整えられた。アドリアはこのプロセスを「創造性の審査」と呼んでいる。これが、エル・ブリの創造的な取り組みを支える土台となった。

この評価システムは、前衛的なレストランという独自性を確立し、組織の戦略的方向性を定めようとするエル・ブリの姿勢を象徴している。

組織とは、“自分たちの存在意義をシステム化したもの”である。それゆえ、仕事の意味を理解した上で、環境を整える必要がある。そして、組織が存続するためには、“自分たちの存在意義”をメンバー全員が共有できるシステムを構築することが重要だ。必ずしも緻密なシステムである必要はない。エル・ブリのように、明確な目標を持って、仕事の方向性と内容をはっきりさせるシステムを作り上げさえすればよいのだ。

エル・ブリは1年間かけて、料理や新しいアイデアを生み出した手順・手法を同じ評価基準に照らして分析した。それは長いリストになり、エル・ブリに素晴らしいアイデアをもたらしたさまざまな創造的な方法が浮かび上がってきた。

リストには、「発見が生まれた正確な日付と場所(レストラン・食品会社・世界中の都市)」「エル・ブリの創造性にどんな影響を与えたか」が、正確に記録されている。そして、まだ実現していないものの、今後メニューに生かせるアイデアの「やり残したことリスト」も年1回更新された。エル・ブリは、潜在的なアイデアの価値も重視していたのだ。

こうした徹底した分析と記録は、「ジェネラル・カタログ(料理年鑑)」という全5巻にも及ぶ膨大な文書にまとめられた。ここには全メニューが網羅され、創作された料理の写真と説明、新たに採り入れた素材や調理法、テクニック、スタイルが1年ごとに記録されている。そして、エル・ブリの創造性の原理やメソッド、インスピレーションの源、「やり残したこと」まで書かれている。
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文=マリア・ピラール・オパゾ 翻訳=岡本 冨士子 / パラ・アルタ

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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