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2016.12.04

映画業界の未来を担うクラウドファンディング[映画界のテスラが語る 第3回]

Jacob Lund / shutterstock


アニメに限らず、実写映画でも成果を上げ始めている。濱口竜介監督作『ハッピーアワー』は、大手の支援がないなかクラウドファンディングで500万円近く集め、300分を超える大作を生み出した。世界的に有名なロカルノ国際映画祭で受賞という結果も残し、世界に通用する邦画制作の一例となっている。

クラウドファンディング・プロジェクトを経験してみて

上記は成功例だが、映画業界においてクラウドファンディングはまだ充分に浸透していない。実際に私が国内外で複数のプロジェクトを行った実感として、日本での認知度が極めて低いことが主な原因と推測される。

2013年にプロデューサーを務めた作品『Plastic Love Story』は、まさにその“認知度の低さ”が失敗の要因となった。日本では初めうまくいかなったが、米国にある世界最大のクラウドファンディングプラットフォーム、KICKSTARTERに英訳したものを出したところ、目標以上の約1万ドルを集めるのに成功した。

その数年後、国内におけるクラウドファンディングの認知度向上を確認し、プロジェクトの打ち出し方を改良した上で映画『愛の小さな歴史』(第27回東京国際映画祭、TIFF)を日本のクラウドファンディングで公開したところ、全国公開の費用(約130万円)を調達。その翌年の映画『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(第28回TIFF)でも同様に約410万円を調達できた。

通常のインディペンデント映画制作者は2年に1本の作品を公開するのが限界とされているが、クラウドファンディング活用によって倍のペースで公開することができた。また、クラウドファンディングを通じて多くの人のサポートを得られたことは、心理的にも大きな励みにとなった。日本でもこのシステムがやっとスタートラインに立ったと言えるのかもしれない。

映画とクラウドファンディングの未来

クラウドファンディングを活用した映画制作が進むなか、それを映画配給(流通)に利用する試みも急激に発展している。

フィリピンで撮影された浅野忠信主演の映画『壊れた心』は、第27回TIFFで上映されたが、興行が不透明なため大手の配給が見送られた。そこでライセンサー(作品権利保有者)に掛け合って日本でクラウドファンディングを行ったところ、全国公開の費用(約300万円)が集まり、り国内での劇場公開が決まった(2017年1月7日公開)。今まで日本で上映される機会のなかった作品が、制作・配給される時代に突入したのである。


(出典:http://tokyonewcinema.com/works/ruined-heart/)

映画業界におけるクラウドファンディングはまだ市場規模が大きくないが、認知度拡大により活用する制作者も支援者も増え、今後より成長することが期待できる。

日本の映画業界はデジタル革命により競争が激化されたが、この新しい世代のツールによって市場が劇的に上昇する可能性があるのだ。現在はまだ一般的ではないが、そう遠くない将来、あなたの名前が劇場のエンドロールに流れるのかもしれない。

文=木ノ内輝

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