大統領一家を支えるホワイトハウスの「本当の住人」[本は自己投資! 第6回]

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ホワイトハウスのチーフパティシエだったロラン・メスニエは、パーティー好きのクリントン大統領のもと過酷な勤務をこなした。2000年の新年を祝うパーティーでは、クリントンがなんと総勢1500人ものゲストを招待したため、仕事を終えて帰宅の途につけたのは翌朝7時だったという。

そんなメスニエに支えられたのがヒラリーだ。モニカ・ルインスキー事件が世間を騒がせている頃、とりわけつらい一日を送った日には、彼女が大好きなモカケーキのリクエストが入ることをメスニエはちゃんと心得ていたという。本書にはヒラリーとメスニエの写真が収められている。メスニエの手を握りながら言葉をかけるヒラリーを見つめる彼の表情はとても誇らしげだ。

その仕事ぶりを通してファーストファミリーと信頼関係を築いたスタッフたちは、いつしかファミリーにとって家族と同様の存在になる。

ジョージ・H・W・ブッシュ大統領のバーバラ夫人はスタッフとの関係をこう振り返っている。「わたしたちは、お互いに軽口を叩き合って、笑い合うような仲だったの。それでいて、悲しいことが起きた時にはお互いに支え合ったのよ」

家族同然の関係だからこそ、スタッフは全身全霊でファーストファミリーを支える。それが世界的な大事件の解決に全力を尽くす大統領であればなおさらだ。1979年にイランアメリカ大使館人質事件が発生した際には、スタッフは実に444日間にもわたってカーター大統領を支え続けた。大統領のために厨房は夜中でも軽食を用意し、フローリストは未明に花を飾り付けて励ましたという。

まもなくホワイトハウスの住人が入れ替わる。新聞や週刊誌はこぞって新しいファーストファミリーの相関図を掲載し、一家のゴシップや政権移行チームの内紛劇を書きたてている。まるで世界中を巻き込んだ壮大なリアリティ・ショーが始まったかのようだ。

新しいファーストファミリーは、はたしてレジデンスのスタッフと素晴らしい関係を築けるだろうか。願わくはスタッフに尊敬され、愛される存在であってほしいと思う。

著者がインタビューしたレジデンスのスタッフのなかで、“Domestic”(使用人)という呼び方を気にする者は誰ひとりとしていなかったという。

彼らは決して“Apprentice”(見習い)などではない。調子に乗って、“You’re fired!”(お前はクビだ!)などとやっていると、やがてその言葉は新しい大統領自身にブーメランのように戻ってくるかもしれない。

なぜならレジデンスを守る彼らひとりひとりが、誇り高きプロフェッショナルだからだ。

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『使用人たちが見たホワイトハウス 世界一有名な「家」の知られざる裏側』
ケイト・アンダーセン・ブラウワー著 江口泰子訳(光文社)

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文=首藤淳哉

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