かつてリアリティー番組「アプレンティス」で落ち目のセレブリティたちがトランプの一番弟子になろうとしのぎを削ったこのビルの26階で、トランプは今、組閣に取り組んでいる。そして、この閣僚人事をめぐる争いは、まるで彼の番組を見ているかのような展開に満ちていた。
勝者の面々は間もなく明らかになるが、この日の主役は最大の敗者となったニュージャージー州知事のクリス・クリスティーだった。政権移行チームの責任者だった彼は、激しい内紛の末に多くの取り巻きもろとも解任されたと伝えられている。だが、この騒動で最も注目を集めた人物は、トランプ・タワーにはいなかった。
その人物とは、トランプの娘婿のジャレッド・クシュナー。同タワーから3ブロック離れた5番街の高層ビルで、実家が経営する不動産開発企業クシュナー・カンパニーズを取り仕切っている。
クシュナーの父親は2005年、脱税や選挙不正、証人への不当圧力の罪で実刑判決を受けたが、その裁判を担当した連邦検事がクリスティーだった。今回の「粛清」はクシュナーによる復讐だとする説もあるが、トランプ陣営はこれを否定している。
だがそれよりも重要なのは、彼がその気になればクリスティーを簡単に追放できたという事実だ。1年前には政治経験ゼロで政界に関心もなかった男が、突如として世界政治の中心に居場所を確保したのはなぜか。
「クリスティー知事と私は6か月前、今回の選挙は互いの過去よりもはるかに重要だとの意見で一致し、これまで非常に良い協力関係にあった。私が取材に応じてこなかったのでメディアの臆測が広まってしまったが、私は彼やその周辺の人々を追放はしていない」
クシュナーはこれまで公の場での発言を避けてきたが、この日はフォーブスの独占インタビューに応じ、トランプ選挙対策チームでの自身の役割について初めて語った。
「トランプがCEOなら、ジャレッドはCOOだ」
弱冠36歳にして豊富な人脈を形成し、ついには新大統領の腹心にまで上り詰めたクシュナー。本人や関係者に行ったインタビューからは、物静かで謎めいたこの若者が、米国史上最も名声に飢え豪然とした大統領候補に勝利をもたらした立役者だったという事実がはっきりと浮かび上がる。
シリコンバレーの実力者で唯一トランプ支持を公言している富豪のピーター・ティールはこう語る。「ジャレッドが選挙戦で果たした役割を大げさに語ったり要約したりすることは難しい。トランプがCEOだとしたら、ジャレッドは事実上の最高執行責任者(COO)だ」