木ノ内:今振り返ると、ボストンは知的探求のアクセラレーションができる環境が整った街だったなと思います。
猪俣:小さい街に大学が密集している。60校以上はあるのではないかと。いろんな考えやスキルを持った人が集まっているので、毎日街のどこかしらで勉強会が開かれていました。素人でもなんでも知ることができるという雰囲気がありましたね。
木ノ内:大学や研究者同士のつながりも密で、クロスボーダーにいろいろなアイデアを聞いたりディスカッションができるのはアドバンテージだったなと。
猪俣:ボストンの地域性がそういうところを育んでくれるのかもしれないですね。アメリカの大学は、何もないところに大学がたった一校あるという事が多いのですが、ボストンはハーバードとMITが横並びで、研究した内容がすぐプロダクトになっていく。交流も非常に盛んです。適度な小ささで、歩いてどこでも行けちゃいますし。
木ノ内:現地で活躍している日本人にも刺激を受けることも多く、私は、MITメディアラボ所長の伊藤攘一さんの言葉に背中を押されました。
アメリカは、日本よりも“失敗のコスト”が低い-。当時から感じていたそのことについて、伊藤さんが講演する勉強会で「この差についてどう思われますか」と質問したんです。そしたら、ご本人に怒られました(笑)。「俺は失敗を重ねてここにいるんだ。とにかく失敗をしろ」と。それからは、失敗を通して成功することを考えるようになりました。
猪俣:僕も同じような経験があります。向こうの学校では卒業時に、必ず教授から最後の言葉をもらいます。マーケティングの教授がかけてくれたのは「リスクを取らない人にチャンスは来ない」という言葉。チャレンジし、何かを生み出していかなきゃと考えるきっかけになりました。
木ノ内:日本はやはり、“失敗のコスト”が高いのは事実ですよね。
猪俣:起業しても、上手くいかなかった場合に立て直しが難しかったりします。「ああ、失敗したんだな」みたいな言われ方をしてしまう。アメリカには起業文化がありますから、チャレンジしたという事自体が評価される。
木ノ内:投資家の考え方も違うと思います。アメリカの場合は、事業に失敗しても「じゃあ次の投資をやりましょう」みたいになりますけど、日本の投資家は、エンジェル投資家と言われる人でも結構保守的。失敗したら「ああ、もう駄目だったんだね。君は終わりだ」みたいな人が多い(笑)。
ただ、リスクが高いというのは、見方を変えるとアドバンデージでもあります。挑戦者が少ない分、新しいことに対する競争も少なく、第一人者になるのが比較的簡単なんです。例えばアメリカで学んだことの流れを汲んで日本で新しいことをやれば、結果が出しやすい。