首相によれば、理由はテロ行為の資金源にもなっているとされる偽札対策だ。また、脱税や汚職に絡んで流通するブラックマネーを一掃するためでもあるという。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、使用できなくなった紙幣を持っている人は、郵便局か銀行に預金することを求められている。その際には、持ち込んだ金額が約3,700ドル(約40万円)に相当する25万ルピー以上だった場合、どこから入手した紙幣かを説明し、納税済みであること証明しなければならない。
だが、この高額紙幣の廃止とそれによる混乱によって、インドではクレジットカードやデビットカード、その他の電子決済による支払い方法を持たない貧困層が大きな打撃を受けている。食料品や生活必需品が、現金では買えなくなっているのだ。病院は患者を門前払いにし、食べ物を変えない人が急増し、薬を買えない子どもたちが、文字通り命を落としているという。
あるインド人の女性ジャーナリストによれば、国内で流通していた通貨の85%は、500ルピーと1,000ルピーが占めていた。この女性は、「ほんの少しの計画性と事前の通知があれば、この人たちを助けられたかもしれない」と指摘している。
「たばこ税」にも類似の影響
国の政策が意図したわけではなく、貧困層に打撃を与えることは多い。この一件は、私たちにそのことを思い知らせるものだ。
もちろん、事前に国民に通知すれば申告していない所得を隠したりする時間的な余裕を与えることになり、政府はそのようなことはできないとの意見もあるだろう。だが、資金洗浄にかかる時間と政府が採用する手法・実施予定の間には間違いなく、どこか適切な時点があったはずだ。
政策を立案する人たちは、家計に余裕があるという偏った考えに基づいて物事を考える。必要なものを突然、買えなくなる人がいるかどうか、という点を見落とすのだ。だが、インドには現金でしか必要なものを買えない人たちがいる。
米国のたばこ税をはじめとする「悪行税」の税率の引き上げを考えてみても、最も影響を受けるのは低所得者層であり、中でも簡単にたばこと縁を切ることができないニコチン依存症の人たちだ。
社会全体が、貧困層が日常的に直面する苦しみを理解することは難しい。それにも関わらず、私たちの社会は自らの便宜上、貧困層が痛手を受けることになる政策をあれこれ導入する。これはゆがんだ、そして醜い形での、富裕層への富の移転ではないか。