進化するコニカミノルタ、カギは「プロダクトアウト」からの脱却

コニカミノルタ・山名昌衛社長 (photograph by Masafumi Maruyama)


─具体的にはどのような変化が見られますか。

いくつか例をあげられます。例えば、最近展開を開始した「ケアサポートソリューション」がいい例でしょう。

これは介護施設で働くスタッフの負担を軽減し、業務を効率化することで「介護者不足」などの社会的課題を解決していくことを目的としています。施設内の事故で最も危険なのは、高齢者が転倒しているのに気づかないこと。それを防ぐため、従来は入居者自身にセンサーをつけ、入居者が動くたびにアラームが発動するような仕掛けをとっていました。

この方法では「駆けつけたけれども何もなかった」という空振りも多くなります。夜間、少人数で回している場合などは、スタッフの負担も大幅に増えてしまいます。こうした負担を減らすため、当社の技術者はまず施設に泊まり込み、介護者のワークフローを観察することから始めました。3カ月間で十数施設を調べ、介護士の仕事を24時間追跡し、研究しました。

その結果浮かんだ解決策のひとつが、介護者にスマートフォンを持ってもらうことでした。入居者が起床やベッドからの転落などをすると、天井のセンサーでそれを検知し、すぐに画像の形で介護者の持っているスマートフォンへと送る。同時にアラームも鳴らす。

そうすれば、介護者が送られてきた画像を見た上で緊急性を判断できるため空振りを抑えることができ、負担を軽減できるはずだという仮説を持ちました。

完成したソリューションサービスには当社が得意とするセンシング技術を組み込んでいますが、プラットフォームとしては、すでに世に広く出回っているスマートフォンを活用しています。必要な技術が当社にない場合は、他社の技術も使いました。

先ほど申しました「プロダクトアウト」から「マーケットイン」へという発想の転換がなければ、このようなサービスは生まれなかっただろうと思います。

─それは非常に大きな変化です。技術者の方が「こういう社会的価値を生み出したら、世の中の役に立つんじゃないか」と発想する。我々はこれを「価値仮説」と呼んでいますが、まさしくその「価値仮説」を持って検証し、必要な技術を柔軟に組み合わせることで実際の価値が生まれていく。理想的だと思います。

複数のセンシング技術を組み込めば、ベッドで横になっておられる方のわずかな体の動きから睡眠や呼吸の状態をリアルタイムで把握できます。また、介護記録や測定した体温や血圧などバイタル情報をスマートフォンから入力することもできるので、いちいち紙に記録する手間も省けて、楽なんです。

検証の結果、日勤の場合で10%、夜間の場合で29%も介護する側のワークフローを軽減できることもわかりました。すでに受注もいただいております。

同様の例は「3Dレーザーレーダー」にも言えます。これはもともと監視用などに開発されたもので優れた製品ではありますが、単体で販売するよりもビデオマネジメントなどのソフトウェアと組み合わせた方が、ユーザーの気持ちに寄り添ったサービスができる。

リアルタイムの映像を観察しながら変化を予知し、警告できるシステムに構築できたら、セキュリティのみならず、ビジネスの幅広い用途で使っていただくことも可能です。当社はすでにビデオマネジメントシステムを持つ会社を買収しておりましたので、今、そこと当社の技術者が一緒になって開発を進めているところです。
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インタビュー=西口尚宏(イノベーション100委員会事務局 Japan Innovation Network) 構成=曲沼美恵

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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