進化するコニカミノルタ、カギは「プロダクトアウト」からの脱却

コニカミノルタ・山名昌衛社長 (photograph by Masafumi Maruyama)


─変革の方向性として「お客様本位」ということを強く打ち出されていますが、これはすでに多くの企業が掲げているスローガンであり、当たり前のようにも聞こえる言葉です。一般的に言われている「お客様本位」と、山名社長のおっしゃる「お客様本位にはどのような違いがあるのでしょうか。

おっしゃるように「お客様本位」を意識していない企業はないくらいでしょう。当社も従来からそれを掲げてきました。ただし、発想がどうしてもプロダクツありきでした。お客様のニーズを聞いて、それを商品に反映していく。こうした「お客様第一」の考えは、まだ「プロダクトアウト」の発想です。一種の御用聞きであり、本当の意味でのお客様本位ではない。

今求められているお客様本位は、本当の意味での「マーケットイン」です。それは、お客様自身もまだ把握していない潜在的なニーズや課題をともに発掘したり、解決したりしながら新しい商品やサービスを創造していくこと。ですから言葉は同じでも、その意味は従来とはまったく違っています。

もちろん、頭ではみんなわかっていました。ただし、体がついていかない。新規事業の開拓をしましょうというと、どうしても技術中心で発想してしまいがちでした。

「それが本当に顧客価値につながるの?」と聞いても、「この技術は世界一ですよ」とか「この商品は世界初です」という説明しか返ってこない。この従来型の発想から早く脱却するためには、誰かがそれをやって見せる必要がある。

それには、これまで当社にはいなかったタイプの人材を外部から集め、当社の技術やカルチャーからいったん離れたところで、自由な発想でビジネスを構築してもらうのが一番いい。そのような考え方の下で立ち上げたのが、顧客価値に基づく新規事業の開発拠点「BIC」でした。

─従来の考え方ですと、まずは東京で「BIC」を成功させ、それを横展開していこうとなりがちですが、コニカミノルタのやり方は違いますね。世界5極同時にスタートされた。これはどうしてなのでしょうか。

それは簡単です。当社のビジネスで言いますと、お客様の8割はすでに海外です。BtoBでつながっている企業も、世界約200万社に上っています。先ほど申し上げた「お客様本位」の発想を貫こうとすれば、お客様に近いところでサービスを展開しなくてはなりませんから、5極同時でないと意味がありません。我々の方からお客様に近づいていこうとする試みですから、当然、そうなります。

BICに関しては13年に構想し、本格的に動き出したのが14年2月です。現在、5極合わせて約100のプロジェクトが動いていますので、このスピード感に関しては期待通りだと言えます。

BICで立ち上がったプロジェクトが今後、事業化していくことへの期待が一番ですが、それよりも嬉しいのはBICの活動に刺激を受けて、もともといた技術者たちの発想や新規事業を立ち上げる際のやり方にも、大きな変化が見られるようになってきたことです。実は、この変化こそが本来の狙いであり、成果だと思っています。
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インタビュー=西口尚宏(イノベーション100委員会事務局 Japan Innovation Network) 構成=曲沼美恵

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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