花王を「優等生」たらしめる会計財務部門の存在

花王執行役員会計財務部門統括 青木和義 (photograph By Jan buus)


EVAの真髄は「キャッシュの使い方」にある。まさに経営そのものだ。今回、自社株買いを発表したが、それもその一環だ。資本コストをいかに抑制・減らしていくか、税引後営業利益(NOPAT)を増やしていくか。コストを抑制することは余剰キャッシュを創出することであり、成長のための投資やM&Aは新たなNOPATをさらに生むという観点から事業を考え、最後に株主還元をする。

EVA導入前から、ノンキャッシュをはじめさまざまな形で、キャッシュ意識を持つための施策をしてきたので、事業サイドも違和感なく受け入れられてきた。

ここ数年のGCM、IFRSの導入という直近の取り組みは、全てEVAにいきつく。継続的に取り組んできたからこそ整合できた。結果論のように見えるが、そうではない。

GCMは、グループ会社の資金を一元管理する「プーリング」、関係会社間の資金のやりとりをまとめる「ネッティング」をしながら、自由に使える余剰キャッシュを増やした。IFRSはグループ108社が同一基準となり、さらに機械装置の耐用年数の統一を行い、会計基準を一本化して、社内の尺度を統一した。EVAの考え方に則ったブラッシュアップだ。

─絶えざる革新の中、変えない「軸」はあるか。そして今後は。

それは「花王経理のマネジメントポリシー」だ。(1)精度の高い利益管理(経営の羅針盤)、(2)決算処理・開示の迅速化、(3)コンピュータの徹底活用、(4)安全・堅実な資産運用、(5)専門人材の育成─。

こうした先輩たちから引き継いできた原点は素直に続けていってほしい。技術の進化が進む中、花王の会計財務部門にある、世の中にない革新的なことをやっていきたいという思いも同様だ。

今後は、「経営の羅針盤」として財務がより強くなっていくことを目指す。現在、会計財務部門はグローバルで700人いる。海外の人材が国内よりもだいぶ多い。IFRS適用により、共通言語ができたことは大きなチャンスになる。国内外を含めてファイナンス組織として知識レベルを高めていけるからだ。

我々は、EVA導入により、自社株買いや配当、社内留保など資本政策に自信を持てたことや、投下資本に対する回収という見方が共通認識となり、企業価値向上という意識が高まった。ただ、EVAの鍵は、現在価値だけでなく、将来価値も加算される。いわゆる「潜在性(ポテンシャリティ)」。

そのため、最後にモノを言うのは、戦略的なビジョンをどうつくっていくのか─。そして、どうわかりやすくブレイクダウンするか─。そこが永遠のテーマだろう。

花王◎2015年12月期の連結決算は売上高1兆4,718億円(前期比5%増)、営業利益は1,644億円(同23%増)。純利益は989億円(同24%増)と過去最高を更新。16年12月期は予想売上高1兆4,800億円。予想営業利益1,840億円、同純利益1,200億円。今期、20年を見据えた中期経営計画を設計する。

あおき・かずよし◎1955年、東京都生まれ。79年横浜国立大学経営学部卒業後、花王石鹸(現・花王)に入社。2001年会計財務センターIRG IRグループ長、07年会計財務部門管理部長を経て、12年より現職。

インタビュアー:日置圭介◎デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員パートナー。早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師。日本CFO協会主任研究委員。著書『ファイナンス組織の新戦略』。

日置圭介 = インタビュアー 山本智之 = 構成

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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