日立製作所の挑戦を支えるCFOの冷静な視点

日立製作所執行役専務CFO 西山光秋(photograph by Jan buus)


─大きな変化には当然、リソースの張り方、振り方が変わる。経営の方向感を決めるうえで、財務の役割は大きい。

重要指標のひとつとして、ROE(自己資本利益率)ではなく、ROA(純資産利益率)を社内外に開示した。ターンアラウンドにはとにかく収益性が重要だった。ただ今後は、IoT事業や社会インフラ事業といった資産が必要な事業を拡大させるため、資産効率を上げることが重要になる。M&A(買収・合併)、R&D(研究開発)への投資にフォーカスする「攻め」が必要になる。

これまでEVA(経済付加価値)をはじめ、様々な指標を試したが、直感的にわかりにくいのは機能しなかった。だからこそ、収益性と資産効率のかけ算であるROAを選んだ。製造、営業、設計といった事業側にも直感的にわかりやすいからだ。

また、収益性はグロスマージン、SG&A率に、キャッシュ創出はキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)に分解しやすい点も主軸に据えた理由だ。

─ファイナンス組織として事業組織とどう関係性を築いているか。

基本的にBUにはそれぞれCFOを設けて、事業ポートフォリオを常にレビューし、劣化した事業はダイベストメント(投資撤退)、必要な事業はM&Aを考慮し、各BUのCEOをサポートする体制にしている。BUの中だけではテクニカルに足りない部分は、コーポレートの組織がサポートする仕組みだ。

BUでもコーポレートでも、事業・製品ポートフォリオをレビューしながら、常に新陳代謝していくことは必要だ。「すべての資産・事業・制度・組織は放置すると腐る」─。事業は放置すれば劣化し、劣化すればマーケットで負け、資産でいうと減損が起こる。

グローバル比率が50%を超える中で、縦軸、横軸に地域軸を加えた3軸でものを考える必要がある現在の組織では、「可視化」の役割がより重要になる。戦略目標の可視化、その進捗をKPIに基づいて報告するなど戦略実行の推進を担う「カタリスト(きっかけとなる人)」の役割が非常に強くなってきている。

─非連続の変革の中、変えない「軸」はあるか。

「基本と正道」と我々が呼んでいる、損得よりも善悪という価値観だ。倫理観の鈍い会社は存続できないからだ。それから当たり前だが利益率を上げること。赤字からの回復にリソースを割くのではなく、有望な事業にスピーディかつリソースをさくことが成長には必要だからだ。これからも、やるべきことをしっかりやり、より思い切った変革を後押ししたい。

日立製作所◎2016年3月期の連結決算は売上高10兆343億円(前期比3%増)、営業利益6,348億円(同1%減)、純利益1,721億円(同21%減)。17年3月期は予想売上高9兆円、予想営業利益5,400億円。中期経営計画の19年3月期の売上高目標は10兆円。純利益目標は4,000億円超え。

にしやま・みつあき◎1956年宮城県生まれ。79年東北大学経済学部卒業後、日立製作所入社。2008年財務一部長、日立電線取締役兼執行役常務、日立金属執行役常務などを経て、16年4月より現職。

日置圭介 = インタビュアー 山本智之 = 構成

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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