クラウドが生んだ新ビジネス「マイクロサービス」の衝撃

Uberは多くのマイクロサービスで成り立っている(illustration by Matt Murphy)


もっとも、APIがただウェブ開発を効率化するだけのツールなら、投資家たちにここまで注目されることはないだろう。APIの本当のすごさは、ビジネスのあり方そのものを変えているところにある。

先に挙げたUber自身も自社のAPIを外部に提供している。たとえば位置情報SNS「Foursquare」のスマホアプリではタクシーを呼ぶことができるが、これは「Uber API」で実現した機能だ。FoursquareのユーザーはわざわざUberのアプリをダウンロードしなくても、このサービスを利用できる。UberはAPIを提供することで、自社チャネル以外でのユーザーの獲得につなげているのだ。

マイクロサービスはAPIを通して、このように複雑につながり合う。こうして構築された巨大な経済圏は「APIエコノミー」と呼ばれ、米IBMはその市場規模を2018年には2兆2,000億ドルに上るだろうと見積もる。

APIエコノミーの出現によって、投資環境も大きく変化した。AWSのVC事業開発責任者で、元起業家のジム・ルースは「私自身が15年前に出資を受けようとしていたとき、自社で開発・管理していないサービスはすべてリスクと見なされました」と振り返る。

だがそれはもう過去の話だ。AWSの登場以後、とくにスタートアップは自社の差別化につながるコアサービスの開発に集中し、その他の非コアサービスはAPIを利用すべきだと考えられるようになった。

「ただし、APIを使ってサービスをただつなぎ合わせるだけではダメです。そこから得られるデータをどのように分析し、新たな価値を生み出し、顧客に提供するのかが問われています」(レッドポイント・ベンチャーズのパートナー、スコット・レイニー)

APIを制する者がウェブビジネスを制する。そんな世界が到来している。

文=増谷 康

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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