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2016.11.10

選挙結果にみる米国民の「精神状態」、トランプ選出は警鐘か

米各地で行なわれている反トランプのデモ (Photo by Drew Angerer/Getty Images)

甚だしく奇妙、ともいえる大統領選の結果は、米国に関する一つのことを極めて明確にした。国民の多くが「不満足だ」ということだ。実際のところ、多くは怒っているように思える。そして、相当数の人たちが、落胆し、恐れている。

非難、責任転嫁、苦悩、憎悪、カナダに向けた国外脱出──米国人の精神状態の悪さを表す言葉を数えたら、どれだけ挙げられるだろうか。

ここ数十年、精神的健康に関する指標は、全てが悪い方向を示してきた。うつと診断される米国民は、1980年代から増加しており、抗うつ剤を服用している人の数は、そのころと比べて2倍になっている。不安障害と診断される人や、治療薬の使用者も増加している。

さまざまな兆候、症状、孤独感を訴える人も増え、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と診断される人も増えた。肥満など慢性的な健康上の問題を持つ人が増え続けていることも、ストレスやうつと関係している。米国民の多くが、まさに健康を害しているのだ。

心の状態が行動を生む

不幸だと思う気持ちや怒りといった精神衛生上の問題が、人に対する責任転嫁や性差別、人種差別、排外主義、といった考えにつながることは多い。そして、今回の大統領選を通じて見られたのは、こうした考えに基づく行動だ。考えてみてほしい。本当に幸福だと感じているときに、私たちは子犬を見つけて蹴とばしてやろうと思うだろうか?

一方、いら立ちや落胆、ストレス、孤独、怒りを感じているとき、私たちは本当の問題を解決するのではなく、誰か責めることができる相手を探してしまうことがある。それはなぜか?──問題を解決する方が難しいことだからだ。ただ、長期的にみれば、他人を非難しても何も改善はしない。ただ物事を悪化するだけだ。

不運なことに、米社会は精神状態に関するこうした問題を隠すことに非常に長けた社会へと突き進んできた。そのことを示す一つの例が、「ポリティカル・コレクトネス(政治的公正)」という考え方の浸透だ。

しかし、国民に対し、発言しても良いこととそうでないことを提示しても、偏見をなくすことにはならない。閉ざされた扉の向こう側や投票所のブースの中で国民によって明示されるまで、全てを地下に追いやり、隠しておくことになるだけだ。
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編集 = 木内涼子

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