谷本:伝統工芸の課題をチームで乗り越えていくとは面白いですね。ただ、伝統の世界では後継者を育てるのが難しいと聞きます。御社では職人を多く雇用して成功されていますが、若手をどのように育成されているのでしょうか。
能登:技術面と精神面、二つの側面から考えています。まず技術面では、職人として入社して3年目で必ず2級建具製作技能士の資格を取得させます。さらに5年後に1級を取得させ、職人を10年かけて一人前にします。この段階をクリアすれば特殊な仕事が来ても一通り対応できるようになるんです。
精神面で必要なのは、やはり「チャレンジャー」の姿勢です。当社はこれまでチャレンジし続けることで生き残ってきました。地方の経済は大変厳しく、しかも衰退産業に属する私たちが生き残っていくためには、時代の変化やお客様からの難しい要望をチャンスと考え、「自分にできる」と信じ、課題に向かって常にチャレンジし続けることが必要です。そこに職人たちが楽しさや生きがいを実感できるような、より良い仕事、そして最高の舞台を用意し続けることが職人を育てる道だと考えています。
そして私たちのチャレンジは、「能代に木材産業の火を消さない」というチャレンジでもあります。そういった気持ちで大きな一体感を生んで若手のやる気に火を付けたいと思っています。
谷本:社長ご自身も、ずいぶんとつらい状況からの出発だとお聞きしました。
能登:そうですね、東日本大震災が弊社のターニングポイントといえます。あのときに仕事がすべてキャンセルになり、父が大病を患って倒れるなどアクシデントが続きました。
私が引き継いでの最初の仕事は17名のリストラだったんです。給与も下げざるを得なかった。しかし、それでもついてきてくれる従業員が残り、私の気持ちも、従業員の気持ちも変わりました。みんなが大栄木工のメンバーとしてやっていこうと腹を決め、心が一つになった瞬間でした。
三代目としてのチャレンジは、これまでのお客様のご期待、ご要望に応えつつも、新たな自社ブランド製品の開発をしていくことです。本業で培った木材加工という軸はずらさずに、建具以外の分野でも弊社の技術を生かし、一般のユーザーにも大栄木工という会社を意識してもらえるように、自社製品で勝負できる会社にするのが目標です。
また、従業員の幸せもお客様と同じくらい大切にしたいと考えています。お客様の幸せを考えてこそ従業員の幸せもある。この両輪をしっかり意識していきたいと思います。
能登一志◎株式会社 大榮木工 代表取締役社長。1978年生まれ。2002年に大学を卒業後、大手百貨店系列の内装会社に3年間勤務。百貨店の他、ティファニーやカルティエ等ハイブランドの内装工事に従事した。その後秋田に戻り営業の傍らネットを活用し一般住宅玄関用木製防火戸というニッチな市場の開拓に成功しBtoCへの分散に力を注ぐも、リーマンショック以降悪化していた本業の立て直しのため2013年に代表取締役社長に就任。会社一丸となり2年目で過去最高の営業利益を記録。