アマゾン・マイクロソフト・グーグルの三つ巴 「クラウド市場の覇者」は誰か?

ArtFamily / shutterstock


ガスリーは、クラウド&エンタープライズ部門の責任者としてマイクロソフトのクラウド関連事業のすべてを取り仕切っている。CEOのナデラに次ぐナンバー2のポジションにいることはほぼ間違いないだろう。ガスリーは、「アマゾンのAWSから我が社のAzureへ移行するユーザーは多い。対戦成績で見れば、我々はかなり健闘している」と話す。

マイクロソフトは30年に及ぶ法人向けサービスの実績を強調し、Office 365などの人気サービスとの抱き合わせでAzureを提供している。ガスリーは、「法人向けサービスの体制が整っている点で、マイクロソフトはアマゾンとの大きな差別化を図れる」と胸を張る。その例として、世界32カ所で展開するデータリージョン(アマゾンは13カ所)、高度なセキュリティ、世界中で高まるプライバシーへの懸念に対処するため、データの保存場所をユーザーが自由に選択できるサービスなどを挙げる。

市場シェアの差を考えれば、マイクロソフトがアマゾンを追い越すにはまだまだ時間がかかるだろう。マイクロソフトはAzureの売上高を公表していないが、アナリストはAzureの市場シェアは約9%で、AWSの3分の1にも満たないと見積もっている。

だがガスリーによれば、Azureはユーザー数と売上高において年率100%を超える成長を示し、毎月12万件のサブスクリプションが追加されているという。またITベンダー300社以上のCIOやCTOを対象に今年4月に実施されたアンケート調査では、Azureを導入する企業数が前年のAWSと比較して速いペースで増えていることも明らかになった。
 
一方、グーグルがアマゾンやマイクロソフトと肩を並べる存在になるのは簡単ではない。それでもグリーンは技術、製品、営業&マーケティングの各部門を統合し、グーグル始まって以来の独立したクラウド事業部門を新設。マイクロソフトのガスリー同様、グリーンもグーグルの優れたテクノロジー(アナリティクス、機械翻訳、音声認識、地図など)を提供することで、顧客を取り込もうと考えている。

こうした積極的な営業活動によって、グーグルはIT企業から一定の支持を得ている。AWSの顧客である音楽配信サービス「Spotify(スポティファイ)」は今年、一部の機能をグーグルのプラットフォームに移行した。さらにグーグルはビッグデータ処理という強みを武器に、コカ・コーラやディズニーといった大手企業との契約も進めている。

しかし長期的には、クラウドの覇権争いでアマゾンの最大の脅威になる可能性が高いのはマイクロソフトだろう。マイクロソフトのAzureは一貫して高い成長率を示し、経営陣もクラウドの戦略的重要性を認識している。Azure上に新たに作られた仮想マシンの約3分の1がリナックスであることからも、マイクロソフトが徐々に「ウィンドウズ独占」というイメージを払拭しようとしていることはわかる。そして、アマゾンと互角に戦える販売体制やパートナー企業とのネットワークも着々と整えている。

AWSにも弱点はあるはずだ。20%を超える利益率を維持している同社には、「割高な料金を設定している」との批判もある。グーグルやマイクロソフトを脅威だと感じる企業は以前から多かったが、アマゾンもその例外ではない。アマゾンがオンライン小売り市場で圧倒的なシェアを誇っているため、AWSを敬遠する企業もあるだろう。

もっとも、グーグルが本当に顧客の支持を集め、マイクロソフトが多少なりともアマゾンとの差を縮められるなら、このクラウド戦争で恩恵を最も受けるのは賢明な顧客企業となるだろう。マイクロソフトのAzureに勝ち目はあるかという問いに対して、ガスリーはこう答えた。

「このクラウド競争の本当の勝者が『顧客』になればいいですよね」


ダイアン・グリーン◎ヴイエムウェアの共同創業者・元CEOとして知られる著名な女性実業家。2012年よりグーグル(現在は親会社「アルファベット」)の取締役を務め、2015年よりグーグルのクラウド部門を統括する。61歳。

ウェルナー・ヴォーゲルズ◎アマゾンの最高技術責任者(CTO)であり、AWS事業の生みの親。2014年に米ExecRank社が「最強のCTO」に選出するなど、クラウド業界で最も影響力のある人物として知られる。オランダ・アムステルダム出身。57歳。

スコット・ガスリー◎マイクロソフトの実質的ナンバー2と目される人物。クラウド&エンタープライズ部門を統括し、法人向けクラウド市場でAWSを猛追する。Webアプリケーションフレームワーク「ASP.NET」の開発者として有名。41歳。

文=アレックス・コンラッド

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事