プリンスは、ニューヨークのカール・ラガーフェルドの一番弟子「CHALIE VICE(チャーリー・ヴァイス)」に今度投資をするという。しかもニューヨークと同時に東京でもローンチするのだが、ローンチ用のブランドブックのモデルを、「小山さんにお願いしようかと思ったけれど、軽部さんのほうがオシャレだからやってくれませんか?」とプリンスに言ってもらうのだ。もちろん軽部は「やります、やらせてください!」と大喜び。
このデザイナーの名にも実は仕掛けがあって「チャラい副社長」→「CHALAI Vice President」→「CHALIE VICE」。「LIE(嘘)」という音と意味もかけてある。
会食後、僕はグッドデザインカンパニーの水野学さんに架空のブランドロゴデザインをお願いし、蒲田の洋品店で就活に使えそうな地味なスーツを購入して、女子社員にタグを縫い付けてもらった。そして雑誌「BRUTUS」の編集者やカメラマンまで巻き込んで、軽部の誕生日にスタジオで偽の写真撮影を行ったのである。
カメラマンはシャッターを切りながら「相当いいね。表紙いけるよ」などと呟くので、軽部はいよいよ好い気になっている。そこへ金髪にサングラス、キテレツなファッションに身を包んだ男が登場する。変装した僕である。軽部はもちろんチャーリー・ヴァイスと思い込んでドキドキしている。僕は軽部に近づき、日本語で「うん、これが一番似合う」と言い放った。
軽部が凍ったその瞬間、スタジオ中のみんなで「ハッピーバースデー!」と叫んだのである。仕掛け人は総勢50人、近年最高の爆笑バースデイ・サプライズだった。
さて、仕込みに3カ月もかけていたこともあり、チャーリー・ヴァイスというブランドにすっかり愛着がわいてしまった僕は、京都の帆布屋さんに頼んでバッグを制作した。ブランドロゴのタグもつけて、おもしろいと感じてくれた人に「原価で売ります」といったところ、つくった40個は即完売してしまった。
僕はそのバッグを三越伊勢丹ホールディングス社長の大西洋さんとの会食にも持参し、「これ、あのチャーリー・ヴァイスのバッグなんです」とプレゼントした。すると社長は「お恥ずかしいですが勉強不足で、そのブランドは知りません」と答えるではないか。「知らない」と正直に言える社長に、冗談を仕掛けた僕はちょっと恥ずかしくなった。