研究開発型企業の「勝ちパターン」をつくる/ペプチドリーム窪田社長

ペプチドリーム 窪田規一 代表取締役社長 (photograph by Jan buus)


PDPSは、東京大学教授の菅裕明が20年以上研究してきた人工RNA触媒「フレキシザイム」をベースに完成した。多くの大学発ベンチャーは、研究開発者がそのままCEOを兼任するケースが一般的だが、「経営は素人だから」と割りきった菅は異なる道を選択した。菅は数名の社長候補と会い、その中で窪田と意気投合する。

ペプチドリーム創業前の00年、窪田はDNAチップ開発のジェー・ジー・エス社を立ち上げている。文部科学大臣賞を受賞するような、技術的評価の高い研究開発企業だったが、事業運営が難航、05年には解散した。この時の経験から、窪田は自己資金から研究開発費を費やすことへの限界、そして戦略的なビジネスモデル確立の必要性を理解していた。

「会社に合うビジネスモデルやスタイルをつくることが何より重要なんですが、それにはやはり経験がものを言います。私自身、失敗した経験があるからこそ、見えてくることがたくさんありました。互いの領域に一切口出ししないー、スタート時点で経営と技術を明確に分けられたのが非常に大きかった」

役割分担を徹底した窪田と菅だが、「苦しんでいる患者さんに薬を届けたい」という根底の想いは常に共有してきた。

「自分たちでゼロから薬を開発して成功すれば確かに収益は大きいけれど、その場合、開発できる薬の数は限られてしまいます。でも世界中の製薬会社が一斉に研究開発を始めたら、3つ、4つ、5つと新しい薬が出てくる可能性があります。だからこそ、我々は非独占を前提にして、世界中の製薬会社とライセンス契約を結んでいったんです」

このほど同社は、米国ブリストル・マイヤーズスクイブ社と共同研究している特殊ペプチドの臨床試験開始を発表した。17年7月には、国家戦略拠点に指定されている川崎市殿町へ自社研究所を竣工、特殊ペプチド創薬の世界的総本山を目指す。

「この10年間で作り上げたレールの上を、脱線させない程度の最高速度で走っていきます」

今後、新薬の多くに特殊ペプチドが関わっていくことが期待されている。ペプチドリームは世界の創薬開発のハブに向け、また新たな一歩を踏み出す。

ペプチドリーム◎創薬開発プラットフォームシステムPDPSによって抗体医薬に続く次世代の医薬品候補の可能性を切り開いた東京大学発のバイオベンチャー企業。2015年12月16日に東証1部に上場。16年6月期単独決算は、売上高43億円(前期比75%増)、経常利益23億円(前期比58%増)

くぼた・きいち◎1953年、東京生まれ。日産自動車、スペシアルレファレンスラボラトリー(現エスアールエル)、ジェー・ジー・エス代表取締役社長を経て、ペプチドリームを設立。2006年より現職。

渡邊玲子 = 文 土橋克寿 = 編集

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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