好業績はガバナンスの成果
15年9月からスタートした審査には厳しい基準が設けられた。特に重視されたのが企業の収益性である。同選考の審査委員でもある一橋大学大学院商学研究科特任教授の伊藤邦雄が座長を務めた経産省プロジェクトの最終報告書、いわゆる「伊藤レポート」で掲げた“ROE8%以上”よりも高い“直近3期連続10%以上”が要件に盛り込まれた。また、社会へ利益を還元しうる開かれた企業が望ましいとの観点から特定株主の保有比率が30%を下回ることも要件となった。これに、営業利益の絶対額と過去3年間での増額幅を加点要素として審査した結果、1,888社の東証一部上場企業の中から5つの「Winner Company」が選ばれた。さらにその5社のCEOへのヒアリングを行い、大賞にあたる「Grand Prize Company」1社を決定した。
大賞を受賞したブリヂストンは、「1.米国企業の買収をきっかけに、米国のガバナンスもベンチマーク対象として、自発的にガバナンスの研究を始めている点。2.その体験をもとに現在の日本本社のガバナンス体制を構築している点。3.さらに指名委員会等設置会社に移行、また3委員会のメンバーの大半を社外取締役にしている点ーーなどさまざまな点で先進的なうえ、4.ガバナンスと稼ぐ力との関係を企業として実感している点」が高く評価された。
大賞のブリヂストンをはじめ、HOYA、りそなホールディングス、コマツ、良品計画のWinner Companyとなった5社の経営者はともに、「現在の好業績はコーポレート・ガバナンスに真剣に取り組んできた結果だと考えている」と答えたという。
Winner Companyの5社には、それ以外にも重要な共通点があると、審査委員長の斉藤は話す。
「好業績であることのほかに5社に共通する重要な点は、経営リスクを前向きに捉えていることだ。痛みを伴うもの、コストがかかるものであっても実行する。その結果、業績が一時的に落ち込むことはあっても、長期的には結果が出ている。
日本企業は本来、人材が優秀で、欧米やアジア諸国の企業に引けをとらないはずだ。しかし、過去の成功体験や守りに固執することが原因で長い期間、低迷している。今回の受賞企業の“自己反省能力の高さ”も、大いに参考にしてほしい」
「歴史の針」は戻さない
コーポレート・ガバナンス“枠組み元年”から1年余りを経た今、日本の企業の意識も変わりつつある。審査委員を務めた伊藤は、海外投資家コミュニティから「日本は本当に久しぶりに変わった」と驚かれたと言う。
「日本で起こっている企業と投資家の変化は、これまでのように個別企業だけではなく、全体におよんでいる。その意味で未曾有の変革が始まったとの認識がある。
今回の審査過程でWinner Companyに選ばれた5社の経営者にインタビューする機会があったが、どの経営者も、ガバナンスは“守り”だけではなく、稼ぐ力としての“攻め”の向上につながっていると実感している印象を持った。
“安心・安定・継続的関係性”を志向してつくられた日本の企業・産業システムにコーポレート・ガバナンスという“規律”を入れることで、既存のパラダイムが大きく変わる可能性をはらんでいる。だからこそ、“デジャブ”を起こしてはならない。歴史の針を戻してはならない」(伊藤)
グローバル競争の激化やデジタライゼーションをはじめ、これからの経営環境が大きく変化していく。
そんな難局において、ガバナンス変革をポジティブに捉え、新たなパラダイムを生き抜ける企業・経営者こそが持続的成長を享受できるー。そんな時代がいま、幕を開けた。