ビジネス

2016.11.08

シンギュラリティ大学CEOが語る、イノベーションに必要な条件

シンギュラリティ大学CEO ロブ・ネイル氏 / Photo by Ramin Rahimian


コーポレート・アンチボディからイントレプレナーを守れ

また、社員がイノベーションを実現するには、最高経営責任者(CEO)の支援が重要だ。アイデアがクレイジーだったり、社内基準に沿わなかったりすると、特に大企業では、あらゆる手を使ってつぶそうとする「コーポレート・アンチボディ(企業抗体)」が働く。イントレプレナーにとって最大の難関の一つは、この闘いである。

企業抗体は社員のやる気を奪うが、本物のイントレプレナーは、自らのクビを懸け、不屈の精神で臨む。自分が正しいと信じるものをあきらめるより、クビになるほうがましだと考えるのだ。その分取れるリスクも大きいし、例外なく最終的に社内で高い評価を受ける。たとえば、米ホームセンター大手ロウズ・ホーム・インプルーブメントのロウズ・イノベーションラボで、店内案内用ロボット「OSHBot(オシュボット)」を開発したイントレプレナー、カイル・ネル(専務取締役)が好例だ。

当初、カイルは猛反対に遭い、何人もが彼をクビにしようとした。同社には、巨費を投じた店内情報アプリがあるのだから、ロボットなど金のムダだ、と。多くの部署がカイルの追い落としを図り、計画を頓挫させようとした。現行の事業形態にそぐわないものだったからだ。

だが、彼は各部署からの疑問の声を意に介さず、(今年)ロボットのお披露目に成功した。試験的段階にもかかわらず、同社が(1946年の)創業以来打ったいかなるマーケティングキャンペーンよりもはるかに多いメディアが、店舗に詰めかけたのだ。翌日、彼をクビにしようとした社員らは一転して、「素晴らしいプロジェクトだ。ぜひ協力したい」と言ってきたという。

プロジェクトの力強さが認められ、もはやつぶされる恐れがない段階までイノベーションを持っていくには、企業抗体を「無視」する強さが必要だ。そのためには、並外れた情熱が欠かせない。そして、大きな情熱を持つには、自分がやっていることに大きな意義を見いだす必要がある。そうでないと、あきらめてしまうからだ。

イノベーションには「マッシブ・トランスフォーマティブ・パーポス(MTP=壮大な変革目標)」が必要だと、われわれが提唱する理由はここにある。自分の仕事を信じ、高邁な目的や意義があれば、より多くの変革や異質なものを許容し、進んでリスクを取り、企業抗体にも耐えられる。MTPが経営者にとっての生き残りのカギになるかどうかはわからないが、企業がより長く持ちこたえられるようになるのは確かだろう。

ロブ・ネイル◎シンギュラリティ大学CEO。スタンフォード大で機械・材質科学、製造エンジニアリングの修士号を取得。1999年Velocity 11を共同創業。2010年、シンギュラリティ大学エグゼクティブプログラムに参加。11年から現職。

編集 = Forbes JAPAN 編集部、イラストレーション=Koyoox

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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