三菱重工業の改革を支える「丁寧なリーダーシップ」

宮永俊一CEO(Photo by Hironobu Sato)


それはその後、06年に本社に戻ってから進めた広島製作所の改革や08年からの事業の分離、分社化、“事業部、事業所、事業本部”の三重構造の変革(11年)、日立製作所との火力発電システム事業の合弁会社設立(14年)、独シーメンスとの製鉄機械事業の合弁会社設立(15年)の時も同様だ。

たとえば、依存体質の強い製品事業の分社化を納得できるように説得するために「事業をつぶすためではない、待遇が悪化するのでもない」と根気よく説得した。変革に反対する社員や戸惑う社員にも「本体や関連会社、子会社とか言うのをやめよう。すべて同格の三菱重工グループだ」と丁寧に説明した。独シーメンスが相手でも変わらない。

─宮永改革の成果は出た。今後は。

2015年度の決算は売上高が約4兆円、売上総利益(粗利)が8,622億円。06年度と比較すると、売上高1.3倍に対し、売上総利益は倍以上になった。収益的に厳しい製品が減り、効率化した結果だ。

こうした効率化という手法の改革は終わり。次はもう一段高いレベルに変わっていかなければ。そのために、どうすればいいか─。それもこれまで同様、世界の素晴らしい企業と比較し、その差を把握し、その中で「今できること」「時間をかければできること」「グローバル企業をはじめ他企業と協力すればできること」と考え、行う。それを社員や投資家、パートナーといったステークホルダーの方に、説明を十分にして、納得してもらってからやる。

─その経営手法は愛読書『自省録』ゆずりか。

本書を読んで思うのは、「こうしたいと発信できるだけでも幸せな立場」ということ。著者であるローマ皇帝マルクス・アウレリウスも自らの思いを記したぐらいだから、現代に生きていたら、より一生懸命に説明をしながら、丁寧に物事を進めていったと思う。「私についてきなさい」という言葉や「信じてついてくれば何とかなる」という言葉はリーダーのあり方として正しくない。

「なぜ、何のためにやるのかという説明をきちんとするので、一緒に頑張ろう」という気持ちが大切ではないか。


宮永俊一◎1948年、福岡県生まれ。72年東京大学法学部卒業後、三菱重工業入社。2000年三菱日立製鉄機械(MH製鉄)の社長就任。13年に社長就任。14年からCEOを兼務。

文=鈴木裕也

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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