データ活用が教える「活躍する人、辞める人」

Syda Productions / shutterstock


一方、オラクルは「Oracle HCM (Human Capital Management Cloud)」で、採用や労務管理、人事関連事務、評価、育成といった人事部が担う一連のプロセスをカバーしている。人事データを統合することで、今までのように経験と勘に頼るのではなく、データに基づいた判断ができるようになる。

オラクルのもう一つの特徴は、IBM同様にソーシャル機能を重視している点だ。アメリカでは今、エージェント経由ではなく、社員や知り合いの紹介やSNSを活用した採用が増加傾向にあるといわれている。そうした中で、企業向けのシステムも、SNSの技術を無視できなくなっている。

日本でも、ベンチャー企業を中心に、採用や人材管理分野の製品が登場している。

クラウド技術を活用した人事・労務分析プラットフォーム「サブロク」を提供するSUSQUE(サスケ)は「退職確率予測AIエンジン」を開発。身近にいる上司や同僚でも気づくことが難しい、出勤・退勤時間の微妙な変化や残業時間の多寡、有給休暇の取得回数の状況などをもとに、従業員の4〜5カ月後の退職確率を週次で、高精度に予測する。

さらに同社は、うつ病発症率の算出や、うつ病発症者の傾向分析、人材配置や、人材タイプに応じた最適なキャリアパスの分析など、データに基づいたサービスを提供している。

Institution for a Global Society(IGS)は、学生と企業のマッチングを助けるスマホアプリ「GROW(グロウ)」を配布している。GROWは、学生の周囲からの客観的な360度コンピテンシー評価と、潜在的性格診断を組み合わせることで、国内外で活躍できる人材への成長を支援。同時にコンピテンシー評価情報と企業が求める人材像をAIがマッチングする。

「目指す職種に必要な能力を身に付けたい」「自分の性格に合った企業で働きたい」ーGROWがユニークなのは、学生に対する周囲からの評価をもとに、マッチする企業を提案する点にある。さらに、現時点での合う、合わないではなく、目指す職種に就くために、不足している能力を指摘して手助けする発想も新しい。

注目は「エンゲージメント」

PwCコンサルティングがさまざまな業種、規模の日本企業102社に対して実施した「2015年度人材データの分析活用度調査」によると、回答企業の77%が人材データの活用に興味があるとしながらも、実際に活用している企業は24%にとどまった。

データ活用の目的としては、「従業員のモチベーション要因分析ニーズ」が最多で77%、これに「ハイパフォーマー要因分析ニーズ」(68%)、「採用候補者のパフォーマンス予測分析ニーズ」(66%)が続いた。

従業員のモチベーションに注目する傾向は、日本だけでなく、アメリカでも共通している。

リンク アンド モチベーションのERMカンパニー執行役カンパニー長 兼 インキュベーション推進室マネージングディレクター、麻野耕司は言う。

「アメリカのHRテック市場では今、エンゲージメントがキーワードになっています」

エンゲージメントとは、従業員が企業に対して“愛着”を持っている状態を指す。そして、企業へのエンゲージメントが強い人ほど、高いモチベーションを維持し、高いパフォーマンスを発揮するといわれている。
次ページ > HRテック普及において日本ならではの課題とは

文=大木戸 歩

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事