データ活用が教える「活躍する人、辞める人」

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アメリカで今、HRテックのスタートアップが続々と誕生。その数は400社を超える。テクノロジーはバックオフィスを、働き方をどう変えるのかー(前編はこちら)。

入社5年目のAさんはこの3カ月、残業時間が増えている。休日出勤も多い。気掛かりなのは最近になって、遅刻や欠勤が目立つことだ。

「疲れているのだろうが、一言注意しておくか」

上司はそうして一旦、様子を見るかもしれない。だが、システムは警告する。

「Aさんはそろそろ退職しそうです」

そして1カ月後、Aさんは転職していった。

採用担当のBさんは悩んでいた。ITベンチャーのC社から求人に応募してきたDさんは、実績も十分だ。しかし、自社の保守的な雰囲気とは合わない気がする。社内は紙でのやりとりがいまだに多いだけに、採用時にどんな傾向のあった人が、入社後に活躍してくれるのか? 社風が合わなければ、辞めてしまうのではないか?

近年、採用時のデータと、入社後のデータをつなげて分析することで、企業は自社で活躍する人の傾向をつかめるようになってきた。過去の退職者の傾向を分析することで、退職者予備軍を事前に把握することも可能になっている。

採用にはコストがかかるし、退職が出ることは企業にとっては損失だ。中途採用者は環境に馴染むまでにも時間がかかる。事前に適切に対処できれば、企業はより効率的に人材を活用できるようになる。

従来、採用時の提出書類など人事部が扱う情報は「個人情報」として管理され、ほとんどデータとして検証・活用されてこなかった。面接時にどんな受け答えをした人が、入社後にどんなパフォーマンスを出しているのか、採用時のデータと入社後の実績を紐付けて分析している企業は少なかった。

KPMGコンサルティングの田中淳一パートナーは指摘する。

「人事の分野は従来、経験と個人的判断に基づく部分が多かった。そこに機械学習やディープラーニングを導入して、定性的評価を可視化しようという動きが活発化しています。過去のデータを活用することで、自社にマッチする人材の属性がわかってくる。一般論としては『仕事のできる人』というのがありますが、その会社のカルチャーや意思決定プロセスなども含めて、なぜこの人がその会社に合わないかを出せるようになってきています」

この領域で知られるのが、人事部向けに採用、能力開発、評価、人材管理などを提供するクラウドサービスの「KENEXA(ケネクサ)」だ。IBMが2012年に買収した。すでにフォーチュン・グローバル500企業の上位20社中13社に導入されているという。
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文=大木戸 歩

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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