アメリカでHRテクノロジー市場が活況だ。日本でも今年はこの分野のイベントが増えているものの、アメリカと比較すると一歩遅れてブームが到来したという状況だ。
アメリカのHRテクノロジー関連企業の数は、2015年時点で400社に達する。その大半をベンチャー企業が占めており、他社と競合しないニッチな領域のサービスを開発する動きが目立つ。投資家も注目しており、例えばZenefitsは、5億8,400万ドルもの資金を調達した。
HRテクノロジー市場の急成長を背景に、大手ERPベンダーも人事関連の製品開発を強化している。オラクルはクラウドベースの人材管理システム「Oracle HCM Cloud」を開発。日本ではワークスアプリケーションズが、ERPパッケージ「HUE」に人工知能(AI)を搭載した。一方、SAPはクラウドベースの人事管理システムを提供するSuccessFactorsや、非正規雇用の従業員管理システムfield glassなど、HRテクノロジー企業のM&Aを活発化させている。
コンピュータの進化によってデータ活用が容易になった今、人事分野にもテクノロジーが踏み込み始めている。こうした動きに、既存の人事コンサルティング業界は危機感を募らせる。
コンサルティング大手の米タワーズワトソンは15年、再保険会社の英ウイリスと合併した。同業同士のM&Aでは、15年末のコーンフェリーとヘイ・グループの統合が記憶に新しい。ITベンダーの脅威が、人材コンサルティングファームの合従連衡を引き起こした格好だ。
テクノロジーの導入には「コンピュータに仕事を奪われる」という反発があるかもしれない。だが、日本は労働人口が減少の一途を辿る。人間の判断を助けるテクノロジーを活用するには、恵まれた市場と言えそうだ。(談・文責編集部)
岩本 隆(いわもと・たかし)◎東京大学工学部卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校工学部Ph.D.。日本モトローラ、ドリームインキュベータなどを経て、2012年から慶應義塾大学ビジネススクール特任教授