ビジネス

2016.10.25

AI研究の第一人者が予測する「組織と働き方」の未来

松尾 豊(Photo by Jan Buus)


「採用も今は直感頼りです。でも、人の能力と仕事の適性の組み合わせは無限にある。データを正しく活用すれば、もっと理論的に人の能力を引き出すアプローチが可能になるはず」(松尾)

職業適性や、人間の能力の伸長というテーマは、もっと深堀りする余地がある。AIはそれを後押しするが、実用化するには、評価項目の設定や、長期間に及ぶデータの蓄積、検証が課題だ。

スキル減衰の速度がアップしている

企業のAI活用が進む中で、働く人の環境も大きく変化する。オックスフォード大学准教授のマイケル・オズボーンは、日本の労働人口の49%がAIやロボットによって代替可能であると言及する。自分の仕事がなくなるのではないか、と不安に思う人も多い。松尾は言う。

「職業がなくなるというより、タスクがなくなるということ。自動改札の登場で、切符を切るというタスクがなくなり、駅員の仕事も、乗客の案内や車両の安全な運行にシフトしている」

技術の進展のスピードアップにより、一度身につけたスキルが減衰するスピードも速くなった。人生の最初の20年に学習した知識で、残りの40年間働くという、これまでのキャリアパスの常識は覆されようとしている。言い換えれば、必要な局面で学びなおすことさえ覚悟すれば、闇雲に不安になる必要もないということだ。自分への投資と回収のサイクルを、より短い期間で行えるようになればいい。

AIにより消える仕事があれば、生まれる仕事もある。AI開発に関わる業務はもちろん、AIを活用して経営判断を総合的に行う仕事も誕生するだろう。こういった業務は「理系大卒程度の数学の素養があれば対応できる」と松尾は言う。AI人材が枯渇しているという声も聞こえているが、意外と敷居は低い。

「本来AIに関わるような仕事をやれば力になるはずの能力ある若い人が、企業で下働きをさせられているのが問題。ITの世界では、20代が最強とされている。海外と戦うのもこの世代しかない」

松尾の研究室でも、優秀な学生ほど自分で起業するようになりつつある。必要なのは発想の転換だ。AIの進化は、人々の働き方や、組織に対する考え方をドラスティックに変革する。


松尾 豊◎1997年東京大学工学部卒業、2002年同大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。独立行政法人産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学CSLI客員研究員などを経て、07年に東京大学大学院工学系研究科准教授に就任。

文=鹿野恵子

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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