ずっと、心に引っ掛かり、忘れられない光景がある。半年ほど前のこと。当時在籍していた部署で、編集アシスタントの募集をしていた二葉美智子は、ある女性と30分の面接を行った。履歴書を見ると、10年近いキャリアがあり、グローバルブランディングの企画経験もある。
「この仕事に応募したのはなぜですか?」
そう二葉が尋ねると、その人は目の前で突然、涙した。
「私はいつから『こっち』の人間になってしまったんだろう。本当は『あっち』側の人間だったはずなのに。悔しい」。泣きながら、彼女はそんな言葉を口にした。
2人目の子供を出産してからは、仕事との両立に限界を感じ、退職を選んだ。いま、身を置く世界は「こっち」。対し、仕事をしていた頃の世界を「あっち」、と彼女は呼ぶ。
彼女にとっては、この二つの世界の間に、大きな川が流れているようなものなんだ─。そう、感じた。二葉が行動を起こすうえでの、大きなきっかけとなった。
「働きたい」という意志があり、知識も専門的なスキルもある。なのに、さまざまな要因から、フルタイムの仕事に就くことができない。そんな状況に置かれている人々に、その後も多く出会った。介護のために退職を選んだ人もいる。「女性」だけの問題ではなかった。
その後、二葉は「子育てをしながら働きやすい世の中を、共に創る。」をキーワードにした「iction!プロジェクト」の事務局長に。
「リクルートグループを横断するプロジェクトを通して、働き方の違いによる断絶をなくしたいと思うようになりました」
iction!プロジェクトの一環として、9月に提案したのが「ZIP WORK」だ。「圧縮する」「すみやかに行う」という意味で使われるZIPという言葉に、スキルや能力を持ち運びながら、キャリアアップを目指せる働き方を広めたい、という思いを込めた。
ZIP WORKの仕組みは、こうだ。
たとえば、いま一人の社員が多岐にわたる10の仕事を持っているとする。その全てを一人で抱え、ときに埋もれさせるよりも、8に注力し、専門的な知識やスキルが必要な2の仕事を、短時間勤務の人々に任せる。専門ではない社員が、長い時間をかけ仕事をするのではなく、そのパーツをプロに依頼した方が生産性も上がる、と考えるからだ。
これを実現するためには、まず、マネジメントが自分の部下に任せている仕事を見える化する必要がある。さらに、様々な働き方をする人と仕事をすることになるので、一見、マネジメントに負荷がかかるように思うかもしれない。だが、かねてより短時間勤務で働く人々と仕事をしてきた二葉は、意外なメリットがあることに気づいていた。
「組織が進化することを実感したんです」
たとえば、いつも同じメンバーで仕事をしていたとする。そこにあるのは、「いつも通り宜しく!」という暗黙の了解。事細かな発注や確認作業を必要としないことも多い。だが、週2日、3日、といったフルタイムではない働き方の人々と仕事をするとなると、そうはいかない。
「まず、どんな仕事が発生するのかを考える。そのうえで、緊急度や専門性などに応じて、仕事を分解していく。組織がこの先、何をしなければいけないのか、マネージャーであった私も毎回考えるようになりました」