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2016.10.20

「悪性インフレ」に備えるたったひとつの方法[日本の不動産最前線 第6回]

Koraysa / shutterstock.com


さらに「金利上昇」を伴う場合には、ストレートに不動産価格の下落圧力となる。これは言うまでもなく、同支払額で払えるローン額が減少するためで、収益物件・マイホームともに、取得者の購入能力は低下する。変動金利で住宅ローンを借りている個人や収益物件のオーナーの破綻懸念も強まる。

1997年のアジア通貨危機時の韓国では、ウォン安、金利上昇といった深刻な景気悪化で不動産を手放す向きが急増、在庫物件が増加し不動産価格は大幅に下落した。

さらに、世界的な金融・経済クラッシュや地政学リスクがより顕在化するなどして危機的・突発的な事態が起きた場合には、不動産市場ではマイホームは売れず、賃料は下落傾向を示すことから収益物件の価格も下落。物価高の中で景気後退が加速していく。

円はもちろん、ドルやユーロなど先進国通貨の信認が揺らぐ事態にまで陥った場合には、実物資産である不動産の価格は相対的に上昇する。ただし、すべての物件が上昇することにはならないだろう。

歴史を振り返れば、経済・金融クラッシュのあとには不動産を持つ者が財を成した。一部経済評論家には「これから悪性のインフレが来る。今のうちに借金をして不動産を買っておけ」という極論もある。たしかにハイパーインフレともなれば、300円の牛丼が3,000円になるといったイメージでマネーの価値が下落、不動産の価値は相対的に上がる一方、負債である住宅ローンは実質的に、3,000万円の借金が300万円というように小さくなる。

ところで一般に使われている「ハイパーインフレ」という概念の定義はやや曖昧であることには注意したい。ハイパーインフレの本来の定義は、米経済学者のフィリップ・ケーガンによれば月率50%(年率1万3,000%)だが、ここでは「非常に高いインフレ状態」という意味で用いる。

こうした高いレベルでの悪性インフレが訪れた場合、持ち家・賃貸とも不動産は既に大幅余剰状態にあるため、これらがすべて価値を維持できることには到底ならないだろう。一方で、東京都心の一部や郊外・地方でもニーズの強い一部立地では、こうした異常とも言える事態の下で価格が数倍になる可能性もあろう。

いずれにせよこれから、マイホームでも投資物件でも、ローンを利用して不動産を買う場合は、固定金利にしておくほうがいいだろう。インフレになれば金利は上昇、金利負担は膨らむゆえ、変動金利ではインフレヘッジにならない。固定資産税算定の基準となる「固定資産税評価額」も上昇し、負担は増えるばかりだろう。

それで現在の超低金利の恩恵を受けたいなら、いざというときには一括返済もしくは大幅な繰り上げ返済ができる場合に限られよう。

【連載】日本の不動産最前線 過去記事はこちら


文=長嶋 修

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