だが、お金の問題に関する意思決定については、その使いやすさと身近さが、逆に落とし穴になる可能性がある。
行動経済学を専門とし、モバイル技術が金融行動に及ぼす影響について研究しているカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アンダーソン経営大学院のシュロモ・ベナルツィ教授は、モバイルとマネーの組み合わせはより衝動的で思慮を欠いた行動を招き、消費者と投資家の双方に、現実的なリスクをもたらしていることを確認した。
教授によると、支払いの際にスマホを利用することは、クレジットカードを使うことの延長線にある。現金を手放す痛みを感じないために支出が増えてしまうことが、調査結果から明らかになっているのだ。
最近ではほとんどの銀行がネットバンキングのアプリを提供しており、スマホを利用している成人の半数以上が、これらをダウンロードしている。こうした中で特に懸念されるのは、モバイル端末での金融取引が増えるのに伴い、衝動的な行動の良くない側面が、その危険度を急激に増していることだ。
教授は、「生涯の蓄えが、クリック一つでなくなってしまうことを考えてみてほしい」「われわれは(簡単に、頻繁に)そうしたことが起きる状況に向かっているのだ」と警告する。
ベナルツィ教授がデューク大学フクア経営大学院の教授と共同で実施した予備調査の結果によると、私たちは金融については、スマホについて知っているほどには理解していないようだ。この予備調査では、参加者らにインフレや金利などについて尋ねた。その結果、スマホやラップトップの画面上で答えた場合の正答率は、用紙に記入した場合の正答率を大きく下回ったのだ。教授はこの結果を受け、「モバイル端末を使った場合、金銭の面で誤った行動を起こす可能性は高い」と指摘している。
この問題は、より広範な影響も及ぼし得る。例えば、株価が下落した場合について考えてみる。急落すれば反発するものだが、スマホで簡単に売買ができるという手軽さのおかげで、反発する以前により幅広く、売りが加速してしまう可能性があるのだ。アプリが市場の動向を知らせてくれることや、慌てたSNS上の友人たちの行動が騒ぎをさらに大きくすることは、言うまでもない。