トランプが矛先を向けてきたイスラム教徒やメキシコ人、移民、難民、有色人種、そして女性一般といった人々は、共和党の忠実な支持者らの内集団にとって脅威とみなされる外集団だったり、内集団の代表的メンバーとはみなされなかったりする人々だった。トランプの発言はこうした外集団の人々の反感を買うものだが、内集団のメンバーを傷つけない限り問題とはみなされなかった。
ではなぜ今になって、トランプが11年前にプライベートな会話だと思い込んで行った発言が、これほどまでの怒りを生んでいるのだろうか?
問題は、この発言の対象が、トランプの性的な誘いを断った(おそらく白人の)既婚女性だったことにあった。この発言によりトランプは、グループ内に定められた暗黙のルールを破り、攻撃の矛先を同じグループのメンバー、またはそのメンバーが持つ中心的な輪の内部へと向けることによって、グループ全体の「勝ち組」としての地位を脅かしたのだ。
トランプのこれまでの女性に対する暴言は、一般的なものや、こうした内集団の外にいる女性に対するものだった。だがその対象が、不倫の誘いを拒否した白人とみられる既婚女性に及ぶと、共和党幹部らは、この女性像に当てはまる人物がごく身近にいることにすぐに気付いた。現在、または将来に男性と結婚し、不倫の誘いを受けてもきっぱりと拒絶してほしいと彼らが願う女性らは、自分に最も近い輪の中に存在していた。
かくしてトランプはようやく、共和党幹部らの逆鱗に触れた。だがその怒りは、特定の個人への攻撃に対するものではなく、既婚男性からの誘いを断る高潔な白人既婚女性という、「か弱く守るべき存在」とされる内集団のメンバーを代弁したものだった。
実際、トランプから距離を置いた共和党幹部らのツイートや声明文は、自身の家族について触れたり、保護や擁護といった言葉を使ったりしているものが多い。ジェブ・ブッシュは孫娘に言及。ポール・ライアンは、女性は「擁護され、尊敬される」べきだと主張した。マイク・ペンスは「夫として、そして父として」トランプの発言は弁護できないと言明し、ミッチ・マコーネルは自身が「3人の娘の父親」であることに言及した。