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ㅤ鎌倉市在住のフリーランスライター兼編集者


貴子は、商品に関してはデザインだけでなく香りの改革も進める一方で、13年4月の社長就任を機に経営にもメスを入れた。全社員参加の社員総決起大会では、1年かけて策定した5項目から成る「エステー行動規範」を発表した。大切にしたのは、創業時から脈々と受け継がれてきた価値観や哲学、精神といったものを埋め込んで、明文化すること。特に喬が強く提唱していた「聞いてわかる、見てわかる、使ってわかる。」を、さらに強化しようと訴えた。この行動規範は朝礼で暗唱することで、いまや社内の隅々にまで浸透している。「聖書と同じように、一言一句、変えてはいけないんですよ。変な曲解や一人歩きを生まないためにも」

また責任の所在を明確にするため、事業ごとの「損益の見える化」と、縦割り組織に商品カテゴリーごとの事業部という新たな横軸を加え、開発から販売まで一気通貫でコントロールできるよう「事業マトリクス制」を導入した。

「これでようやくすべてが変わりましたね。事業部長の責任感が強くなり、営業に利益意識が生まれ、社員一人ひとりの集中力やクリエイティビティが上がり、スピードが加速して、中期的にブランドを育成できるようになった。その結果が、現在の業績に直結しているのだと思います」。エステーの企業スローガンは「空気をかえよう」だが、貴子はまさに社内の空気を一変したのだ。意識改革と構造改革の2本柱で。

終戦後、疎開先の母親の着物が虫に食われていたことに胸を痛めた創業者が開発した防虫剤を皮切りに、湿気の多い日本で家財を守るための除湿剤、悪臭を抑えるための消臭剤など、常に時代の要請に応える形でエステーは市場を創造してきた。16年で創業70年。今後も「空気を制御する」という観点で新しいビジネスや商品開発に果敢にチャレンジを続ける。「経営理念や沿革を繙くことは重要だと聞きますが、私たちはその重要性を痛感しました。それらを実際に繙くことによって自分たちの強みと弱みを再確認できましたし、5年後、10年後、50年後に何をすべきか、どんなチャンスがあるのかを見極めることができたのです」

鈴木貴子◎1962年、東京都生まれ。84年、上智大学外国語学部卒業後、日産自動車、LVJグループなどを経て、2010年にエステー入社。フレグランス・デザイン、グループ事業戦略などと兼任しながら執行役、取締役などを経て、13年より現職。

文=堀 香織

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