地元のファンを増やす「現代版・参覲交代」[小山薫堂の妄想浪費 Vol.15]

色彩あざやかな花がつくりだす美しい風景。ここに「世界で最も贅沢な書斎兼小さな図書館」を建てたい。(illustration by Yusuke Saito)

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第15回。ポケモンGOに千社札、参勤交代に大名屋敷……。現代と古を行き来しながら郷土愛を体現し、観光客やファンを増やすアイデアを筆者は今日も夢想中。

「ポケモンGO」がリリースされて約1カ月。一時の熱狂は落ち着いたものの、移動とあらばスマホを開いてポケモンを探してしまう人はまだまだ多いようだ。僕も何回かやってみたけれど、いまひとつ熱中できないまま、レベル9でストップしている。仮想世界がリアルな世界と融合するおもしろさは理解できるし、収集癖も刺激されはするのだが、パズドラのような明確なスキルが必要とされるわけではないので、集めることが主体だとどうしても自分のような面倒くさがり屋は飽きてしまう。

僕がいま個人的におもしろいと思うコレクションは、日本航空(JAL)の客室乗務員(CA)さんからいただく千社札(せんじゃふた)である。千社札とはもともと神社や仏閣に参拝した記念として貼る、名前や住所を書き込んだ札のこと。最近では職人さんが道具に貼ったり、舞妓さんがお客さんに配ったりすることも多い。

件(くだん)のCAさんは先日から国内線全線でそれぞれに縁(ゆかり)のある47都道府県をデザインしたバッジを着用している。これは「機内でお客様と共通の話題でもっとお話ししたい」という思いから生まれたアイデアだそうで、ポイントは、出身地ではなく、「縁の地」であること。旅で訪れて気に入った場所、応援している被災地、恋人や両親の出身地……。どんな理由でその地を選んだのか、というだけでも話の緒(いとぐち)になる。しかも、会話のあとは話題となった都道府県の千社札シールをもらえるのだ。47都道府県を集めたところでどうなるわけでもないけれど、コレクション心がちょっとくすぐられませんか?JALに搭乗する際は、CAさんのバッジに注目し、ぜひ会話のきっかけにしてみてください。

古の知恵を現代に活かす

ところで「地方創生」を考えるにつけ、参勤交代は素晴らしくよくできたシステムだったと思う。職人や料理人、商売人が江戸に集まることで街が活性化し、諸大名によって道が整備され、文化や風俗、流行などが江戸と地方を行き交ってさらなる発展を遂げたのだから。そこで、古(いにしえ)の知恵を現代に活かす、「現代版・参勤交代」という企画を考えてみた。

現代の参勤交代は徒歩ではない。日本の職人技を駆使した神輿的なオープンデコトラを国が製作し、最低3日くらいかけて東京を目指す。乗車するのは参加希望の地元の人たち。いや、市町村長たちがそれぞれ発信したい思いを胸に乗り込むのもいいかもしれない。もちろん、高速道路ではなく、下道をゆっくり行くのが肝だ。街道沿いの人たちとの交流を大切にすることで、ファンを増やすことができるから。ちなみに、費用の参考にはならないと思うけれど、安永6年(1777)の熊本藩細川家による参勤交代の費用は2,336両、現在の貨幣に換算して約2億3,360万円とのこと。
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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