地元のファンを増やす「現代版・参覲交代」[小山薫堂の妄想浪費 Vol.15]

色彩あざやかな花がつくりだす美しい風景。ここに「世界で最も贅沢な書斎兼小さな図書館」を建てたい。(illustration by Yusuke Saito)


こうして東京にたどり着いた「現代版・大名行列」の一行は、1カ月間、県産品フェアを催すことができる。場所は、地方の資産家が地元への恩返しを兼ねて、東京にビルを一棟購入してくださると話が早いかもしれない。言わば「現代版・大名ビル」を建てるのだ。1階にはアンテナショップ、2階から上は地元の商店が軒を連ねる。固定資産税がかかるので、たとえばビルの上階には宿泊施設を設けて、宿泊券はふるさと納税で得られるとか費用を上手に回収できるシステムをつくるといいかもしれない。

文化の発展はいつでも、人が集まることで起きる“化学反応”から始まる。1カ月に1県が東京を訪れるとして、46カ月に1度、故郷のプロモーションができるというのはすごくワクワクする企画ではないだろうか。そうそう、東京駅八重洲口のヤンマービル1階にある京都市のアンテナショップ「京都館」が、ビルの建て替え工事のため、移転を余儀なくされている。というわけで、京都に本社を構える任天堂社長の君島達己さん、次なる京都館を一緒にやりませんか?構想としては、1階に京都館、2階から上は京都の老舗とホテルを兼ね備えた複合施設。もちろん1階にポケモンセンターを併設すれば、それだけで人が集まる場所になることは間違いない。

そこでしか買えない・読めない

情報でも商品でも手に入れるのが簡単な時代だからこそ、人はいま「手に入れるのが難しいこと」に心を寄せるのではないだろうか。

たとえば、兵庫県の城崎温泉の「本と温泉」というユニークな企画がある。温泉宿が協力して3冊の本をリリースしているのだが、そのラインナップが魅力的。1冊目は志賀直哉『城の崎にて』『注釈・城の崎にて』の箱入り2冊組、2冊目は万城目学さんが実際に城崎に滞在して書き下ろした『城崎裁判』、3冊目は湊かなえさんが城崎をテーマに書き下ろした『城崎へかえる』と、それぞれ装幀も驚くべき凝り方で、なんと城崎温泉でしか買えない。城崎温泉……、行ってみたくなりますよね。

僕が関わっている企画では、羽田空港ロビー上部の壁面を利用した「旅する日本語展」*というのがある。僕が書いた旅にまつわるささやかなエッセイと、片岡鶴太郎さんが描かれた画のコラボレーション作品の展示だ。拙著『恋する日本語』を読んでくださった日本空港ビルディングの広報部より依頼があって実現したのだが、今後は地方自治体と組み、このコラボ作品を石碑として設置できないかなと考えている。「そこに行かないと見られない」に、僕もぜひトライしてみたい。
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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