国立研究開発法人国立がん研究センター研究所分子標的研究グループ分子細胞治療研究分野の落谷孝広・主任分野長(博士)がリーダーを務める、「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」プロジェクトは、13種類のがんを1回の採血で診断する技術と、簡便な診断ツールの開発をめざしている。
そこでは今、たった一滴の血液から、「ステージ0〜1」のがんでも特定できる診断法の確立が山場を迎えている。これは日本オリジナルの技術であり、認知症診断にも応用できることもわかってきた。キーワードは「エクソソーム」と「マイクロRNA(リボ核酸)」だ。
エクソソームは、さまざまな細胞が分泌する直径数百ナノ(ナノは10億分の1)メートルの小胞で、細胞間の情報伝達を担う。
「がん細胞は、エクソソームを自らの分身として分泌して周囲の正常な細胞を騙したり、罠にかけたり、味方に引き入れたりして自分自身を守り、転移を引き起こしたりします」(落谷博士)
そこで大きな役割を果たしているのが、エクソソームが内包するマイクロRNAだ。たった22個の塩基で構成され、人体内には2,588種類があるという。注目すべきは、がんの種類によって異なるマイクロRNAの放出量が増加する点だ。つまり、肺がんと乳がん、肝臓がんでは、増加するマイクロRNAがそれぞれ違っているのだ。
ならばがんの種類と増加するマイクロRNAの種類との相関関係が立証できれば、診断に活用できる。しかもマイクロRNAは、血液だけでなく汗や尿などの体液にも含まれている。汗や尿でも検査が可能となれば、診断はより手軽になるはずだ。
プロジェクトでは、国立がん研究センターや国立長寿医療研究センター、共同研究する8つの大学などに保存されている膨大ながんの検体を解析。どのがんでどのマイクロRNAが多く発現するかを解明しようとしている。対象は13種類のがんで、「日本人のがんのほとんどを網羅するもの」(同)だ。
例えば乳がんでは1,200検体以上を検証したが、5種類のマイクロRNAの発現を追跡するだけで、98%の感度で発病を確認。早期のステージ0でも98%の確率で突き止められた。また、大腸がんで80%の確率で診断できるマイクロRNAの存在を突き止め、食道がん、胃がん、肝臓がん等についても続々と解明されつつある。