米厚生省の下部組織であるメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS、公的保険制度の運営主体)はすでに、セラノスの創業者エリザベス・ホームズ最高経営責任者(CEO)の医療検査事業への関与を禁止する考えを示している。
繰り返された「うそ」
セラノスは約2年前、診断検査機器の販売は行わない、米臨床検査大手ラボコープ(LabCorp)やクエスト・ダイアグノスティクス(Quest Diagnostics)に匹敵する企業になり得る極秘の技術を採用する、など説明。検査は静脈に針を刺して採血するのではなく、指からごく少量の血液を採取するだけで可能だと主張していた。
だが、ホームズCEOがこのほど発表した公開書簡には、同社の事業撤退の決定に関連して驚くような内容が記されている。同社がこれまで説明してきたこととは、全く反対のことが述べられているのだ。
ホームズは以前、利幅が少ない検査事業を、料金を低く抑えたままで利益率の高いビジネスにすると明言。自社の検査機器は、それができるほど優れていると繰り返し述べていた。だが、書簡ではそれと異なる説明をしている。さまざまな検査が可能な検査機器を開発し、それを販売するというのだ。
一体誰を相手に売るというのだろうか?新型の検査機器については今年8月、詳細がすでに発表されており、それは専門家らを驚かせるようなものではなかった。同社はそれについても、過小評価だとしていた。セラノスが作ると約束したものを実際に作っていたと考えれば、同社の新たな検査機器は、以前のモデルほど優れたものではないということになる。これはばかげた話だ。
セラノスにはまた、別の問題点もあった。それは、同社がこの新たな検査機器を売り込むことは関連業界にとって、セラノスが「利益率が2倍になったラボコープ」のような企業になることになることほど、魅力的ではなかったということだ。
ジャーナリストたちにもてはやされる存在から嫌悪される存在になったセラノスは今、一から始め直そうとしている。だが、それは何もないところで一から始めるよりも、難しいことだろう。とりわけセラノスはこれまでに繰り返し、「分かっていると言ったことを、実は分かっていなかった」という実態をさらしてきた。セラノスはいまや、世界中から疑いの目で見られている。
資産は一年で4,600億円減?
フォーブスは今年6月、ホームズの保有資産をゼロとする推計を発表した。もちろん、われわれが確認できないどこかに資金を保管している可能性もある。それでも、フォーブスのいずれのリストにも名前が挙がることはない金額だろう。
セラノス株の半数を持つホームズの保有資産についてフォーブスは昨年、
45億ドル(約4,660億円)と推定。「アメリカで最も成功した女性」の1位に挙げていた。
セラノスの「羽を止めていた蝋(ろう)」は溶け落ちてしまった。空から落ちて、いつ着地するのかはまだ分からない。