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2016.10.13

激化する米国「私大サバイバル」、危機を脱した3大学が取った手段とは

ドリュー大学のベニンガー学長。元大学教授で、大学審査機関の所長を経て学長に就任した彼女は、外部からの人材を招聘し、教育と経営の両面でドリュー大学を立て直そうとした。(Photo by Matthew Furman)


不動産開発とM&Aで大学を強化

入学者数でいえば、ペンシルベニア州にあるドレクセル大学は底辺に位置する。同大学は出願者の80%近くを受け入れているが、実際に入学するのは8%足らず。つまり、12人の合格者のうち1人しかドレクセルを選ばないのだ。

学長のジョン・フライは、ドレクセル大学が「簡単に入学できる大学」という悪評から脱け出せると考えている。そして入学者を増やすべく、入学担当上級副学長としてランドール・ダイクを連れてきた。彼は、名門ニューヨーク大学の大学ランキングを上げる上で重要な役割を果たした人物だ。

ダイクは入試戦略を見直し、ドレクセルの「無料早期出願プログラム」を廃止した。4万7,000人以上が出願するものの、その多くは大学について何も知らず、通う気すらないからだ。その一方で、ドレクセルの協調的で体験を重視する学習と、科学・エンジニアリング教育に力を入れている。

また、大学の近隣地域を再開発する計画を進めている。フライはそのために、二つのREIT(不動産投資信託)と手を組んだ。再開発計画にはおよそ50億ドルの不動産開発が含まれており、研究施設やインキュベータが入る「イノベーション・ネイバーフッド」や、「大学都市の書斎」という名のホテル、保育所、公立高校、学生用アパート、そして食堂の建設が予定されている。

加えてフライは、経営難に陥っている創立204年の「自然科学アカデミー」を買収した。

「見事な資産を抱えていました。5,000万ドルの基金、1,800万点に上る蒐集品、誰もがほしがるような不動産など……。唯一、現金だけがなかったのです」と、フライは語る。費用は、ピュー慈善財団からの助成金でまかなった。いまではドレクセルは、生物多様性・地球・環境科学部を開設しており、同アカデミーの著名な研究者たちが加わったことで、学生と教員の比率も改善している。

「勝つために、他の大学よりも多くの資金をつぎ込むようなことはしません」と、フライは言う。

「それでも、私たちは他の大学よりも迅速に動きますし、より多くのパートナーと組みますよ」

ブランド強化と国際化で生き残る

地方の小さな大学が、学生を惹きつけるのは難しいものだ。そこで、米北東部バーモント州にあるベニントン・カレッジの評議委員会は、斬新なアイデアを持つ学長を探していた。選ばれたのは、国土安全保障長官を務めたジャネット・ナポリターノの腹心、マリコ・シルバー(38)であった。
 
シルバーがベニントンの学長に着任した13年、合格率が65%と入りやすかったにもかかわらず、新入生は159人まで落ち込んだ。在籍率も83%だった。だが、ベニントンの1,700万ドルの些細な基金では、シルバーにできることは限られていた。

「ベニントンは、過小評価されています」と、シルバーは主張する。

「つまり、本当は社会に対してもっと貢献できるはずなのです」

シルバーによれば、675人いる学生たちには「学習プラン」を作るという課題が与えられ、毎年1〜2月に7週間にわたってキャンパス外で実地調査をしなければならない。

「ベニントンでは、学生に戦略的思考を身につけてもらいます」と、彼女は語る。16年の卒業生には、宇宙建築を専門にした学生が1人いたそうである。
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文=マット・シフリン

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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