遺伝子解析 x AIの威力で「病気になる前に病気を治す」

宮野 悟(Photo by Irwin Wong)


健康寿命を延ばすことが国家財政の破綻防止につながる

井村氏が政府に「先制医療」の考え方をまとめて提言したのは11年。

「超高齢社会に突入した日本では今後、医療費高騰が間違いなく重大な社会問題となります。そんな中でこれからの医療のあり方を検討した結果、個人に焦点を当てた予防に力を入れるべきとの結論に至ったのです」 

厚生労働省によると、12年度の日本の国民医療費は39.2兆円、介護費は8.9兆円に上った。これが、団塊の世代が後期高齢者に突入する25年時点では、医療費が54.0兆円、介護費も19.8兆円に膨れ上がると予想されている。医療費と介護費を合わせて73.8兆円。今年度の日本の一般会計予算額が約96.7兆円であることを考えても、医療費、介護費の大きさがわかるだろう。このまま放置すると、国家財政に与えるダメージは計り知れないほど大きくなる。

高齢者の健康寿命を延ばし、財政破綻から国を救うにはどうしたらよいのかー。「先制医療」は、その一つの答えといえそうだ。

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人工知能技術が医療を変える

日本人の死因の3分の1を占めると言われる、がん。今、飛躍的に進化したゲノム解析の技術を、がん治療に活かす試みが本格的に始まろうとしている。そこで決定的に重要な役割を果たすのが、人工知能技術(AI)だと言われている。その一例が、IBMが開発したAI「Watson(ワトソン)」だ。AI技術は、医療をどう変えるのか。

がんは、細胞内のゲノムで起こった様々な遺伝子変異が積み重なり、正常に働いていた細胞のシステムが暴走を始めることによって起こる病気だ。いったんできたがん細胞は、栄養さえあれば無限に増殖する。実に厄介なことに、がん細胞は増殖に必要なエネルギーを血液から得るために、自らのまわりに血管を勝手に作って血液を補充する。つまり、一度できてしまうと、がん細胞はとめどなく増え続ける能力を持つといわれる。この難病に対する医学界の関心は高く、世界中で様々な研究が行われてきた。
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文=竹林篤実

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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