遺伝子解析 x AIの威力で「病気になる前に病気を治す」

宮野 悟(Photo by Irwin Wong)


大切なのは、40歳以上の中年期になってから将来の健康を考えるのではなく、生まれた時から健康に注意すること。これはライフコース・ヘルスケアと呼ばれる、新しい概念だ。

健康長寿を実現する先制医療

個人の遺伝子情報を解析し、早い段階からバイオマーカーをチェックしていれば、将来発症しやすい病気をかなりの程度で予測できる。それなら、まったく症状のない段階から、将来を予測して医療的介入を行えば、発症を防げる可能性がある。こうした早期介入の多くは生活習慣の改善などであるため、わずかなコストで実現可能だ。井村氏は言う。「例えば腎臓病の場合、尿タンパクが見つかった段階では、すでに腎臓がかなり悪化しています。最終的に人工透析が必要となれば、年間でかなりのコストが必要となるでしょう。これを未然に防げるようになれば、社会的なメリットは大きい」

アルツハイマー型認知症に関しても、発症前に兆候を見つけられるようになってきた。まず「ApoE4」と呼ばれる遺伝子を持っている人は、持っていない人に比べて4〜5倍程度、アルツハイマー型認知症を発症しやすいことがわかっている。PET検査を行えば、アルツハイマー型認知症を引き起こす「アミロイドβタンパク」や「タウタンパク」が、脳内にできているかどうかがわかる。現時点でアルツハイマー型認知症を完治させる治療法は見つかっていない。けれども、一定の効果を期待できる薬は見つかっており、治験も始まっている。アルツハイマー型認知症も、早期介入により発症を抑えたり、遅らせたりできる可能性が出てきているのだ。

「まだ課題は多いものの、先制医療が普及すれば、医療や介護を必要とする人を大幅に減らせる可能性があります。できる限り病気にならずに幸せな人生を全うする。健康長寿を実現する先制医療は、日本だけでなく、これからの世界にとって欠かせない技術なのです」(井村氏)

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文=竹林篤実

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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