テクノロジー

2016.10.12 10:00

救急医療アプリが、「病院の壁」を超えて患者を救う

株式会社アルム 坂野哲平 (photograph by Irwin Wong)

モバイルヘルスベンチャー・アルムが目指すのは、手のひらにおさまる“スマート病院”の実現だ。

「病院はスマートフォンでネットワーク化することでもっとスマートになる。私たちはこのサービスで、毎年100万人の命を守りたいんです」と話す代表取締役社長の坂野哲平の言葉は熱い。

脳卒中や脳血管出血などの「急性疾患」は、まるで“通り魔”のようにある日突然あなたを襲う。アルムが開発した「Join」は、この急性疾患から患者を守るテクノロジーだ。まるでLINEのメッセージのような操作感で、患者のMRI画像を医師間・病院間で共有できる。また位置情報を利用した救急車の追跡、搬送先病院の受け入れ最適化などを行い、診断・治療を劇的に効率・高速化する。

もしもあなたが急病に倒れた時、Joinを導入する病院に運ばれれば、診断時間は平均40分短縮され、死亡率も大幅に低下する(注:東京慈恵会医科大学病院での実績)。急性疾患の特効薬は診断スピードだ。それは予後にも影響し、医療費は8%削減、入院日数は15%短縮できる。

坂野はJoinの普及を図るため、医療系ソフトウェアとしては日本で初めて、公的保険の適用を受けた。つまり、Joinを利用することは「診療行為」となり、病院側には公的医療保険から「診療報酬」が支払われるのである。現在、日本で70の施設に導入され、北米・南米、スイス、台湾などでも展開している。モバイルヘルス領域の2020年の市場規模を6兆円と見込んでいるアルムにとって、患者と医療従事者、双方へサービスを供給するためのインフラは欠かせない。実際、医療ソフトをつくって売るだけのIT業だけではビジネスにはならない。大切なのは、獲得したインフラで何をするかだ。

「将来的にはJoinでつないだ患者と医療従事者のネットワークに、AIによるビッグデータ解析を導入したい。病気の自動診断や遠隔医療サービスを開発・展開することで、医療価値を向上させるのが目標です」

モバイルヘルスの領域は参入障壁が高い。それは坂野にとっては競合が少ない“ブルーオーシャン”である。

「技術と実行力さえあれば、自分のビジネスで業界の第一人者になれる。非常にエキサイティングな領域です」。そう話す坂野の口調は自信に満ちていた。

さかの・てっぺい◎1977年、三重県出身。小学校〜高校卒業までの8年間を米国で過ごす。早稲田大学理工学部卒業。2001年、スキルアップジャパンを設立。15年、医療ICT事業への本格参入に伴い、アルムに商号変更。

文=森旭彦

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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