ビジネス

2016.10.07

生活習慣をアプリで「見える化」、病気の芽を教える先制医療

根来秀行 ハーバード大学医学部客員教授


根来は脈拍の「ゆらぎ」と呼ばれるものに着目した。心電図の波のように、心拍は一定のリズムで動いているように見える。しかし、実際は心拍の波間が長くなったり、短くなったりしている。このブレを「ゆらぎ」と言い、ゆらぎは自律神経と関係がある。副交感神経の動きが活発だとゆらぎが大きくなり、交感神経が活発であればゆらぎが小さくなる。ゆらぎは、体が自らを整えるために行っているもので、糖尿病などの患者はゆらぎがなくなっている。

ゆらぎを感知することで、自律神経のバランスを測定し、「疲労度」や活力である「元気度」を数値化する。スマホならば24時間測定できて、データを蓄積できる。

また、根来が開発したアプリ「sleepdays」を枕元に置き、眠りの浅さや入眠までの時間、深い睡眠の状態を計測する。こうした測定の結果、アプリが体内時計を把握し、一日をどのように過ごしたらいいか、休憩の入れ方や深呼吸の時間、入浴や睡眠のタイミングなど体内時計を充実させるためのアドバイスを行う。

人間は痛みを感じて、初めて病気だと気づく。見えないところで進行する病気の芽を早めにアプリが教えるというわけだ。根来が研究テーマとする「先制医療」である。

しかし、ジレンマとの闘いでもある。

「ここ数年、夜中まで携帯やパソコンを見て、生活のリズムを崩している患者さんが現れるようになりました。そうした患者さんにアプリで意識変革を促す。携帯は両刃の剣でもあるのです」

自分の睡眠を視覚化する

「不眠症になって初めて外来に行きますが、早期に体内時計のずれを是正する目的でつくったのがこのアプリです」

「Sleepdays」は、根来氏がハーバード大学での研究にてサーカディアンスリープTMメソッド(睡眠学と時間医学を融合させたメソッド)を開発し、それを応用したアプリだ。枕元にスマホを置いておくだけで、睡眠の状態を測定する。寝返りや眠りの浅さと深さ、入眠までの時間などがわかる。体内の状態がデータとして蓄積されるため、利用者にとって、いつ頃に深呼吸(リラックス)したらよいか、何時に入浴したら眠りが深くなるか、あるいは何時に寝たら体内時計が整うかなどを教えてくれる。

また、無呼吸症候群など潜在的な問題を気づかせてくれることもあり、利用した患者たちは「自分で意識していなかったことがわかり、衝撃だった」と好評だという。生活習慣への意識を高めることが目的であり、知らない自分を知ることが病気を防ぐことになるはずだ。

根来秀行◎ハーバード大学医学部、パリ大学医学部、杏林大学医学部で客員教授。徳真会グループ「クオーツメディカルクリニック」で診察するほか、著書に『身体革命』など

編集 = Forbes JAPAN 編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.27 2016年10月号(2016/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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