谷本:そんな、ふじようちえんが大切にしている想いが園内あちこちに見られます。
加藤:昨今、本屋に行けば「How To」ものばかりが置かれていますよね。私が大切にしたいのは、「What To Do」、つまり「何をするか」ということです。子供時代にやることは「子供をしっかりやること」、これに尽きると思うんです。
遊びの中にはすべての要素が入っています。だから、ふじようちえんは、園庭もわざとガタガタに作っています。一回転べば、そこで学び、もう転ばないんです。そうやって体幹を形成していく。
また、集中力を養うために、壁を取り付けず、わざとうるさい状況を作り出しています。それに、ドアは全部閉まりにくいようになっている。隙間風が入って寒いので、子供たちが自らきちんと閉めるようにするための仕掛けなんです。水を出しっぱなしにしないために、跳ね上がった水で脚が濡れるようなデザインも採用しています。
谷本:ふじようちえんは、モンテッソーリ教育でも有名です。
加藤:日本でモンテッソーリをやっているところはまだ少ないですよね。なぜなら、それを教える先生の育成が大変だからです。たまたま、ふじようちえんでは先代から45年間、この教育をやっています。
モンテッソーリといえば、「グーグルはモンテッソーリメソッドなくしてありえない」などとも言われ、創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンがこの教育を受けたことで有名です。また、バラク・オバマ米大統領やフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスなどの成功の秘密も、この教育にあると言われています。
モンテッソーリ教育の基本にあるのは「子供は自ら成長発達させる力を持って生まれてくる」というもの。ですので、私たちは、子供たちの自立心が育つことを主眼に置き、自然や人とのふれあいの中で、多くの発見をし、自ら考え、理解していくことをサポートしています。
谷本:そもそも、加藤園長ご自身は、もともと教育分野の方ではなかったのですよね。
加藤:はい。国会議員の秘書をしたり、食品関連の商社で働いたり。海外にもたくさん出かけました。幼稚園に携わる前は、ケーキ店もやっていました。
そんな時に、父親が営んでいた藤幼稚園(当時)で、園のバス運転手がインフルエンザになってしまった。そこで1週間、運転手を代行したんです。そしていざ園を去ろうとしたら、子供たちが「遊ぼ遊ぼ」とまとわりついてくる。そこで、ハッとしました。「私はいままで何をしていたんだろう」と。
価値の在り方がそこで大きく揺らいだんです。幼児教育の大切さにはじめて気づかされた瞬間でした。実は、もともと50〜60歳くらいで家業を継ごうとは思っていたのですが、36歳で入社を決め、2000年に引き継ぐ形で園長に就任しました。