ふじようちえんのポリシーである「子どもが育つこと」を真ん中に、アートディレクターの佐藤可士和氏をディレクターとし、建築家の手塚貴晴氏・手塚由比氏によって設計された斬新なドーナツ型の園舎は、グッドデザイン賞や、アジアデザイン賞、日本建築家協会賞など数々の賞に輝いている。
教室はすべてガラス張りで、天窓からは光が入る開放的な作りになっているほか、教室と教室、屋内と庭の境界線もない。園庭には2頭のポニーがいて、園児たちは自分達よりも大きな動物と戯れる。また園舎の軒先には季節の野菜が並び、自分達で収穫したじゃがいもをポテトチップスにして食べる。
一見、幼稚園に見えないこの空間は、子供だけでなく、大人をもワクワクさせる壮大なアミューズメントパークのようだ。「世界一楽しい幼稚園」を着想した加藤積一園長に聞いた。
谷本有香(以下、谷本):まずは何より驚いたのは、加藤園長と一緒に園内を歩いていると、一人残らず、すべての子供たちが園長に手を振ったり、タッチを求めにやってくる。ここまで園児たちから慕われている園長先生をこれまで見たことありません。
加藤積一(以下、加藤):子供たちにとってタッチは「会話」なんですよね。
この園舎の設計を手掛けた手塚貴晴・由比夫妻は、外部空間と気持ちよくコミュニケーションが取れる家造りを得意とされています。実際、園舎は、中と外との境界線がありません。部屋や外壁には大きなガラスがふんだんに使われており、すべての教室が互いに見える作りになっています。また、園の外からも中を見渡すことができ、地域の中に溶け込んでいるんです。
また、コミュニケーションは人との間だけではありません。自然とのコミュニケーション。木と土と風を一年を通して感じながら、自然の中で遊び、四季折々の感覚を味わうことができる、これがふじようちえんなんです。
谷本:ふじようちえんは最先端だ、と世界から注目されています。
加藤:それは違います。もちろん、時代の頭としての「先端」も意識していますが、きちんと「しっぽ」も取らえ、子供たちにわかりやすく伝えているつもりです。
「しっぽ」というのは、昔の子供たちのように、五感をフルに使わせること。たとえば、車や地下鉄などが発達し、雨に濡れない時代だからこそ、ふじようちえんでは、雨に直接さわれるガーゴイル(西洋建築の雨どい)を設置しています。
雨の感じが「しとしと」なのか「ざーざー」なのかがわかる子に育てたい。情感を育むということです。五感をフルに使って感じて、そして考える。これを大切にしています。