ビジネス

2016.10.03 09:00

シリコンバレーで鍛えた「現役医師のVC」

池野文昭 MedVenture Partners 取締役CMO(写真=アーウィン・ウォン)

「メドベンチャー・パートナーズ」は、日本初の医療機器専門のベンチャーキャピタル(VC)だ。設立は2013年10月。翌14年から投資を始め、すでに8つの案件を抱える。

CMO(Chief Medical Officer)の池野文昭は、長年シリコンバレーで医療ベンチャーのコンサルティングに携わってきた経験を活かし、日米を往復しながら事業に奔走している。

ことのはじまりは12年、官民ファンド「産業革新機構」から「立ち遅れた日本の医療機器産業を何とかするために、知恵を出してほしい」と声がかかったこと。当時シリコンバレーでは、医療機器VCが優れたアイデアを持つベンチャーを育て、大企業による買収で資金を得て、別のアイデアの実現を目指すという、エコシステムができあがっていた。

一方、日本の医療機器産業には技術も人材もアイデアもあるが、起業に必要な支援体制は整っていなかった。そこで池野に白羽の矢が立ったというわけだ。

池野は大学卒業後、循環器内科の医師として地域医療に従事した9年を経て、01年に渡米している。所属したのは傑出したアントレプレナーシップで知られるスタンフォード大学。だが、当初からビジネスに関心があったわけではない。「恥ずかしながら以前は、VCというとハゲタカのイメージしかありませんでした」

ラボでは医療機器開発のための動物実験に従事した。ベンチャーが持ち込むアイデア先行の医療機器に対して、実験に基づいて医師として対等なフィードバックを行う。そうした中で成功する医療機器が生まれ、池野の仕事も信頼を勝ち取っていった。勤務の傍らシリコンバレーで医療機器スタートアップ向けのコンサルタント業にも挑戦した。また自身で起業を体験し、リーマンショックでは挫折も味わった。

日本の医療VCはスタートしたばかりだが、早くも第二、第三の医療VCが誕生している。その中で池野は、先のような貴重な経験を活かし、有望なアイデアを見定めているのだ。

日本の医療機器産業を育てることによる効果は、単なる産業振興にとどまらない。

「現在、日本は医療機器だけで8,000億円の貿易赤字を出しているのです。これを黒字に転換できたら、社会保障費がどれだけ助かることか」

VCの力で社会を変える。池野の挑戦はまだ始まったばかりだ。

いけの・ふみあき◎1967年、静岡県出身。自治医科大学卒業。2001年よりスタンフォード大学にて循環器科での研究を開始、現在主任研究員。13年、MedVenture Partners設立、同社取締役CMOに就任。

文=森裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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