「企業再生のプロ」、新生ファミマ社長の熱すぎる経歴

澤田貴司 ファミリーマート代表取締役社長(写真=佐藤裕信)


貴重な経験を得た澤田は、95年12月27日、当時の室伏稔社長に長いレポートを提出する。タイトルは「伊藤忠の収益構造の抜本的改革へのチャレンジ」。「伊藤忠のリソースを持ってすれば、流通業界でセブンイレブン以上の会社をつくれるはずだ」という強い信念があった。

翌年1月4日、室伏社長は年頭挨拶で「今年、我が社が取り組むべきはリテール関連事業への思い切った参画である」と発言。無論、澤田のレポートを受けての所信表明だ。30代後半の一社員と巨大商社トップの間で何通ものレポートが行き来したが、最終結論は「時期尚早」。役員から「10年いればお前の絵は描ける」という声をかけられるも、澤田にその10年は長すぎた。

「退社日は昼から空けておいてくれ、と室伏社長に言われたんです。忘れもしない、97年4月GW前日、ほづみという寿司屋でサシでランチをした。お互いへべれけになるまで飲みました。社長は『お前の夢を実現できずに申し訳ない』と...」

しかし、強い信念や情熱は引きが強いと言わざるを得ない。最初のレポート提出から約20年、ファミリーマートの筆頭株主となった伊藤忠から、澤田は社長の座をオファーされた。サークルKサンクスと合わせて店舗数約1万8,000に増加となれば、首位セブンーイレブンに肉薄する。“天命”を感じた。

「小学校の校長だった父は生意気な私をよく叱り飛ばしましたが、私が26歳のとき急逝したんです。2,000人近い参列者の皆さんが、父に世話になったと喪主の私に声をかけてくれた。人の人生は死に際に評価される。周囲の人をどれだけ幸せにできたかが大事だと、亡くなった父に教えてもらいました」

目標は10年でグループ売上高を10兆円まで増やし、加盟店、社員とその家族、お客様を一人でも多く幸せにすること。店舗研修で制服に身を包んだ自らの写真を見せる澤田の表情は、新しい船出を誰よりも楽しんでいるように見えた。

さわだ・たかし◎1957年、石川県生まれ。81年、上智大学理工学部卒業後、伊藤忠商事に入社。97年、ファーストリテイリングに入社し、翌年取締役副社長に就任。2002年、同社退社。05年、リヴァンプ設立。16年、ファミリーマート取締役を経て、9月1日より現職。

文=堀香織

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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